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〜龍と刀〜
流れ往く者
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−−月が照らす山道を、ひたすら歩く。山道、というよりはただの獣道。落ち葉や枯れ枝が敷き詰められた地面を踏み砕きながら進む者が居た。

「こんな月夜には酒が美味いだろうな。この仕事が片付いたら、久々に飲むとしよう」

空を見上げぽつりぽつりと呟きながら歩く男。出で立ちは、裾が地面に擦れてしまいそうな丈の黒みがかった灰色のロングコート、全身をそれに準じた色調でフォーマルに纏めている。目立つのは対照的に真っ白なシャツとハット。
そんな小綺麗な男がこんな獣道を歩いているのにはもちろん理由がある。

「確か……この辺りだったと思ったな」

立ち止まり、若干ながら構えらしき動きを取った。両腕をクロスさせてコートの内側に忍ばせ、何かを取り出すような構えだ。
視線鋭く木々の間を射抜くように見渡す。微かな動きさえ見逃すつもりはなく、その姿はまるで獰猛な獣。

「来たか……!」

一瞬の煌めき。風を切るような音と共に近くでは小さな悲鳴。彼の“仕事”の対象だ。

「正直、オレの得物とは相性が悪いような相手だが……これもまた試練と考えよう」

ザ、ザ、ザ……と蠢く何かが次第に近付いているのが分かる。ここからでは視認することは出来ないが、感覚として捉える事は可能だ。
纏わりつくような視線が大量に、男を品定めするかの如く向けられているのを、ただ感じる。

「ん……?仕事内容とは少し違うな。数が多いみたいだが−−」

這い回るような音が一斉に止まり、途端に空気が動き出す。
木々の隙間、茂み、上空、四方八方から彼を襲うのは無数の蛇。体を波打たせ、闇夜に鈍く輝く牙を剥き、縄張りに侵入した者を駆逐もしくは捕食するために一点目掛けて飛翔する。

「−−オレの双銃の敵ではない……!」

再び腰に手を添え、抜き放つ。鈍色の閃光が先に走り、遅れて男の両手に収まる二つの武器により深紅の光。それが男を中心に次第に増え、一瞬の内に周りは昼間のように明るくなった。ほんの数秒の出来事。
そして、空気を振動させる轟音を伴った爆発。
悲鳴が一つ、二つ……と次第に増えては消える。焼かれた蛇は炭のように黒く焦げながら、地へと伏す。その様子を目にしているはずの後続も、毒牙を仕舞う事はしない。しないが、動こうともしなかった。じっと男を睨み、隙あらば噛み付こうと狙っているのだ。

「分からないようだから今ここでしっかりと教えてやるぞ?」

視線そのまま両手の弾倉を抜き、足元に捨てる。そして新たにコートの内側から新たな弾倉を取り出して装填。

「お前達がオレに狙われる理由……それはな−−」

落ち葉が敷き詰められた地面。その上を光の筋が走り、瞬く間に魔法陣を発生させる男。
力が体を巡り、腕を伝って銃へと流れて弾丸に込められる。

「−−オレの目的を達成するための踏み台だからだ……!」

両腕を上空に向け、引き金に指を掛けた。二発の弾丸が闇夜を裂いて地を照らす。
それからすぐ、戦いは終わっていた。立つのは男だけ。周りにあった木々も全て薙ぎ倒されている。

「さて次だ……蓮乃市へ−−」

コートを翻し、蛇たちの亡骸に目もくれず突き進む。たった一言だけを口にして。

「少しばかり戯れても良いだろうか」

不適な笑みもついでとばかりに零しながら。


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あきゅろす。
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