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〜龍と刀〜
放たれた偽物
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記憶の操作。それは社会の表と裏を隔てるために必要な壁の役割を担う。
仕組みとしては簡単で、元々あった記憶を書き換え、周りの状況と辻褄が合うように造り上げるというもの。ただ、範囲を広くするためにはそれなりの人員と経費が必要となってくる。
今回のように国一つを一度に覆うなどといった巨大な事例は無かった。

「いやはや、まさか成功してしまうとは……」

「その言い方じゃまるで失敗が見えてたようだぞ?」

「だってこんな方法ですよ?驚きもしますよ」

若い二人の男が術式の成功に俄かに明るい雰囲気が戻り始めた協会内部で、歩きながら語る。勿論彼らにも仕事があるため書類の束を両腕で抱えながらだ。

「現代だからこそ、思い付いたんだろうよ。今じゃなきゃこれは出来ないし」

「まさに過去と現代のコラボレーションですな!」

「まぁ、大仰に言えばそうなのかもしれんけど……あんまりはしゃいでられないぞ?何せ俺ら資料班の仕事はこれからなんだから」

辿り着いた一室に資料の束を置く。二人より前に到着していた男女も似たように束を自身の近くに置いて作業をしていた。

「“電波による記憶操作”、書留の作業を開始」

“電波による記憶操作”。これが今回成功を収めた、放たれた偽物の記憶の正体だ。


*****


−−表社会で生きる人間たちは、目の当たりにした謎な出来事に怯え、竦んでいた。どこに逃げれば良いのかも分からない、安全な場所など本当にあるのだろうか、と。飛び交う怒号、叫び、悲鳴。
車で徒歩で逃げようとする者たちで道はもみくちゃになっていた。昼間の混雑時の比ではない。
明らかな異常事態。街にある巨大なスクリーンには国のトップが落ち着いて行動するようにだとか、周りの人間も気にしてだとかそんな何の解決策にもならない気休めを必死に喋り続けている。誰も気に留めない。留めてる暇が無かった。
だから、不意にそんな放送が切り替わったことに気付いた者はかなり少なかっただろう。
真っ黒な画面に変わり、ゆっくりと落ち着いたリズムの音楽が流れてきたのだ。
突然過ぎる出来事にほとんどの人間が顔を上げ、騒ぎが次第に収束していく。心を静めるようなそのリズムに争っていた人々はもと来た道を戻り出す。

「あれ?なんでこんなに慌てて帰ってたんだろ?」

「誰か芸能人でも来てたのかも!」

「所々街にひび入ってんのは……気にしなくてもいいかぁ」

今回放ったのはただ、“何事も無かった”と認識させること。成功が確認されれば追って新しく上書きを行う。
だから今は少しくらいの矛盾があっても仕方がない。


*****


「電波に乗せて術式を送る……じゃが魔術も同調出来るのか」

協会の長は成功の吉報を自慢の髭を撫でつけつつ聞いていた。

「電波も目に見えませんから干渉するには簡単ですし、元々幻覚とかは五感に訴えるものですからね」

近くに居た女性が答える。それを満足そうに耳に入れる長。問題は山積みだが、今だけは少し憩うとしよう。


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