〜龍と刀〜 夢の中]]V クスター・リュハネン。 騎士団団長にして歴戦の英雄。容姿そのままの数々の武勇伝とともに、よからぬ噂が付きまとう国王の右腕。 この世で知らぬ者は居ないとまで謳われている男だ。 「どうして、あなたがここに……」 「決まっている!反逆者を捕らえ、国に貢献するためだ!」 下馬し、丘の頂上からゆっくりとした足取りで近付いてくる。一歩ごとに地面を揺らしているのではないかと錯覚させる程の覇気。 異形たちですら片手で押しのけて歩みを進める彼を、止める者は居なかった。 「……」 「どうした?恐れて声も出ぬかこの雌犬めが」 「嘘ね。あなた……貴様みたいな輩がそんな純粋な騎士様みたいな台詞を吐く訳がないもの」 射程圏内。 お互いがそれ以上の場所から動こうとせず、睨み合いが続く。そんな緊迫した中で一番辛いのはマーワルド。 二人の人間から容赦ない殺気を浴びせられ、只でさえ消耗していた体力が削られていく。 「この儂を愚弄するとはァ、良いご身分に成ったなぁリーザ?全軍進めぇい!」 籠手に包まれている太い指をゴキゴキと鳴らし威嚇。侮辱を受けたのがそれ程気に入らなかったのだろう。 「……っ」 仲間の何人かがリーザに加勢しようと走るが、異形による攻撃に加え進軍を開始した騎士団が弓矢や火器で邪魔をする。 数秒で再び戦場が完成した。 「グァッハハハ!足が竦んでいるぞリーザ!英雄を前にして怯えているか!」 「誰が……!」 初動。リーザが両手で握り締めた剣を交互に振る。常人ならこの速さで切りかかられたら一撃で沈むはずだ。 そんな速度で放たれた殺意の攻撃をリュハネンは−− 「ぬんっ!」 −−気合いとともに両腕で受け止めたのだ。かなりの衝撃が骨にも伝わっているはずなのだが、不敵に唇を歪ませてニヤニヤしていた。 剣は鎧の強度によってなのか、それともリーザの一撃に耐えきれなかったのか中心からポッキリと折れてしまう。 破片が舞い、リーザが体を捻り、腕を引き戻すよりも早くリュハネンの足が爆発的な動きでリーザの腹部を蹴り上げた。 「意気込みは良し。だが!」 ミシミシとリーザの鎧が軋む音が、マーワルドの耳にも伝わるほど強烈な。 「英雄の首を容易く取れるとは思うなぁ!」 体の浮遊感。そして次に来るのは連続した衝撃。凄まじい勢いで飛ばされた後、何度も地面を転がったのだ。 「く……かはっ……」 口元から漏れるのは息だけではなく、真っ赤な血液も一緒だった。 誰が使ったのかも分からない武器の破片や異形たちの爪や牙などによって体中もボロボロだ。 呼吸は荒く、立ち上がろうとしても体は動かない。 「くく、これで終わりなようだな反逆者?なぁにすぐには命を奪ったりはせんよ……上玉だからなぁお前は」 不気味に口元歪めるリュハネン。抵抗しようにも腕も足も思い通りに反応してはくれないし、仲間たちも騎士団や異形に阻まれて近付けない。 初めて、敗北を決意した。 「さて、持って帰るとするか」 巨大な手がゆっくりと首元に伸びる。 [*前へ][次へ#] |