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〜龍と刀〜
夢の中]T
*****


心につっかえているのはただ一つ。僅かに離れることとなってしまった家族についてだ。
別に両親が居る訳ではないが、彼女だけは守りたい。そう思って飛び出した。
何年、何十年掛かるかは分からないが、自分たちならそれを叶えられることが出来るはずだ。
だから、精進する。皆が寝静まったこの時だけでも、自身の力を高めるために。

「−−」

無言のまま思い描くのは変わった姿。
この世で渡り歩くために必要な姿。

「私は変わらなければならないのです……主のためにも、姉様のためにも……」

自分の手で守るには、この矮小な姿では足りない。もっとちゃんとした肉体を。

「早く、仕上げなければ……」


*****


夜が明ける頃。
マーワルドは紙にペンを走らせていた。

「これで良いか……悪いねジーニー。先に旅立たせてもらうよ。またどこかで会えることを神に祈っておく……親友、マーワルドより」

酔い潰れて爆睡しているジーニーを起こさないように小さな声で。
その枕元にたった今書き終えた手紙を置き、出立の準備は完了。

「行くよ、アスラ」

「ええ。道案内は私に任せて、主は悠然と進んでください。何者にも下に見られないように」

「努力するさ。何かあったら全力で蹴散らしてやろう」

気合いは十分。
いざ、彼女らの集っているはずの場所へ。


*****


朝霧が立ち込める、領主の館の裏。小高い丘に集まっているのは彼女らの軍勢だ。

「ふふ……来てくれると、確信していたわ」

騎士甲冑に身を包んだ彼女は陣−−おそらくではあるが−−の真後ろで悠然と構えていた。

「力は貸すが、一つだけ条件を付けたい。その条件を呑まなかった場合は……交渉決裂ということにしようじゃないか」

彼女を取り巻いていた軍勢の一部からどよめきが上がる。昨日、震えていた青年から出た声とは思えなかったからだ。

「時間は取らせない。イエスかノーで答えてくれ」

「いいわ。まずは聞いてみましょう」

「では……」

一度瞳を閉じ、口に出そうとしている言葉を確かめる。

「……この軍勢を、この軍勢の指揮権を全て俺に委ねてくれないか?俺なら上手く動かしてやる」

静寂、そして聞こえた範囲に騒乱。

「馬鹿を言うな!何でいきなり出て来た野郎に指図を−−」

「決めるのはあんたらじゃない。最終判断は……君だろ?リーザ・エスタナス」

彼女−−リーザはこれまで保っていた余裕の笑みを微かにひきつらせた。名乗っていないはず……と記憶を辿る。

「俺だって調べるさ。伊達に旅をしてないからね……さてそれでどうする?リーザ・エスタナス?」

「やっぱりあなたは面白い男ね。わかった。指揮権は譲ることにする。周りが何て言おうと」

「物分かりが早くて助かるよ」

マーワルドはリーザに歩み寄り、右手を差し出した。その手はしっかりと包み込まれ、結託の証となる。

「よろしく頼むわよ、マーワルド様」

「様は止めてくれないかな?居心地が悪い……」

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