〜龍と刀〜 夢の中T ***** −−これは夢だと分かっている。眠りが浅いからかもしれないが、とにかく分かるのだ。 時を遡ること数百年。正確な年数は覚えていないのだが、きっとそれくらいなのだろう、と朧気に思う。 「……」 一羽の鳥が大きな空を旋回していた。それは獲物を見つけた、という合図だ。 鋭い眼光に睨まれた獲物はその場に縫い付けられてしまったかのように動かない。 「グゥ……!」 「おっとそこから動くなよ?大丈夫、痛くはしない……はずだから」 突如聞こえた人の声。手にしていたのは両刃の剣−−なのだが、どう見ても刃こぼれしている。言わばなまくら。 危害を加えるつもりはないのだろうか、背後から思い切り叩き付けた。刃こぼれしているとは言え、剣は剣なので一概にそうとも言い切れないのだが。 「よし、もう良いかな?」 倒れた、熊のような巨大な動物の上に乗っかり、素手でその頭を軽く叩く。等間隔に。 「まったく、こんな可愛い顔して悪さなんかするんじゃないぞ。今のご時世、森の中にも人間が潜んでいたりするのかもしれないが、なんとか山の物で過ごしてくれないだろうか?」 「ガウ、グルルル」 「ん……悪いが俺は獣の気持ちまでは理解出来ないんだ……頼めるか?」 頭上、木の枝に留まっていた漆黒の鳥に声を掛けた。 青年の呼び掛けに答えるようにゆっくりと下降、肩に乗り、鋭利なくちばしを開く。 「主よ、彼はただの獣ではなく、獣族と呼ばれる由緒正しき血を受け継ぐ−−」 「ああ、ああそうだったな。それで、何を伝えようとしていたか分かるか?」 そこから紡がれたのは何と流暢な人語だった。しかし、この場に居る者は誰も驚かない。それが普通という認識になってしまっているからだ。 「……人間が様々な物を作ってしまったため、我らには居場所が無くなってしまった」 青年の肩から熊の頭に。まるで会話しているかのように頷いたり、相槌を打ったり。 「そして、我らの故郷を奪っただけでなく他にも手を伸ばしている……それが許せない、だそうです」 「確かにここ最近の人間の技術の発達は凄い。その利益を得るためなら手段を選ばない輩も居るって訳だな……同じ人間として謝罪する」 頭を垂れ、気持ちだけでも理解してもらいたいということを伝える。 「何も主が謝るようなことは……」 「いや、これは多かれ少なかれ人間が悪い……なら、責任を取るのも人間の役目だろ?」 熊の背中を優しく撫で、立ち上がった青年。ボロボロの剣を同じくボロボロの鞘に仕舞う。 「……まさかとは思いますが、単身で乗り込むなどと言いませんよね?」 「そんな頭の悪い事はしない。それに、俺にはお前という凄い相棒が居るんだからな」 「止めはしませんが、あまり遠くには行きませんよ。私にも事情があるのですから」 次の行き先はこの近くだったはず、青年はそう思いながら足を動かす。 「それは百も承知だ。付いて来てくれるか、アスラ」 「主の命とあらば……」 [*前へ][次へ#] |