〜龍と刀〜 奔走X ***** 「ふむ、準備は完了したかの?」 いつもと同じように顎髭を撫でながら聞く。 歴史上初の試みであり、これから多用される可能性のある術式を。 「全魔術師に通達は完了しました。あとはこの術式を発動させるだけです」 「上手く乗せれれば良いんですが、何せ初めてなのでどう転ぶかは誰にも予想出来ません……」 「それは儂にすら分からぬのじゃよ。だから、信じて発動してみよう。良い結果になる可能性だってあるはずじゃからの」 全てが予測不可能。 しかし踏みとどまっていては意味がない。せっかく出た解決の糸口をむざむざ手放す訳にもいかないのだ。 「……発動させるための魔力は儂が出す事にしよう。その方が良いじゃろ」 「……なっ」 過去の栄光に泥を塗らないためにも。 魔術の未来を断たないためにも。 権力者として、全ての責任を負う。 「異論は認めぬぞ?儂とて、一端の男じゃ。二言は無いんじゃ」 言ってからすぐ、術式を発動させるために地に描かれた魔法陣の中央へ。 様々な知識を総動員して作られたこれは、普段の物の数倍の大きさ、記号の量を有している。 それもそのはず、正確な術式が完成していないため、元々ある術式を広げていくしかないのだ。成功すればそれを記録し、圧縮したりして個人が使い易い物へと作り替えていく……そしてそれが魔術の歴史となる。 「そうして生きて来たのが儂ら人間じゃからな−−さあ、始めても良いかの?」 いつになく気合いの入った声で。まさしく大勢の人間を率いるリーダーだ。 「はい!いつでも行けます!」 「全ての網と結合完了……今が最大の効力を発揮出来るはずとなっております」 「そうか……では、さっさと終わらせて建築物などの修理にも手を回すかの……!」 片膝を地面に付け、皺と傷だらけの手の平で魔法陣を叩く。乾いた音が静まり返った空間に響いた。 その場にある手書きの記号に光が灯り、水の波紋が広がるように、瞬く間に魔法陣を塗りつぶしていく。 「順調だ……このまま続いてくれよ……」 「さすがは長!あんな時間の掛かりそうな魔法陣を短時間で−−」 集中している本人には全く聞こえていないが、外野ではこのような呟きが複数。 全てが祈りに近いもの。 そして、最後の一周に光が届く。何が書いてあるのかは一般人には理解出来ないだろうが、彼らには分かる。 最後に書かれているのは、 「表示すべき結果は……魔術師以外の記憶操作。音と光による、人間の聴覚と視覚への刺激じゃ!」 一文字。 ピースがはまった魔法陣は、今までで一番の輝きを放つ。魔力が充満している証だ。 「術式、広範囲記憶操作……発動!」 轟音とともに、見えない何かが射出されたのをその場に居た全員が感じた。 ***** [*前へ][次へ#] |