〜龍と刀〜
平和な時間V
「で、何で龍神君以外の人が居る訳?どういう事かしらね?」
「ああ〜大丈夫。ボクは目的地に着いたら勝手に消えるしさ。別に龍神が女の子に囲まれてるのが気に入らなくて邪魔してるとかじゃないから〜」
早口で言う幸輔だが、多分本心では言っていないだろう。
声色や表情、仕草から見てもいつもと同じ。だから、多分、ただの冗談のはずだ。
「それで……井上君はどうして陽ちゃんと一緒に?」
「ふっ、よくぞ聞いてくれまし−−」
「月華、こいつは数にカウントしなくても良いぞ?あくまでも俺の財布なんだから」
「ダメだよそんなの!脅迫とかしてたら怒るよ?」
テンションの高い井上はほぼ無視の状態で話が進む。
進んでいないのはこの場に居る全員の足だ。未だ教室からも動いていない。
「この時期は日が暮れるのも早いからさっさと出ようよ〜?ボクは仕事もある訳だしさ〜」
「だったら先に行けば良いじゃないですか……まあ俺たちも行きますけど」
「龍神が冷た〜い。今の時期の風みたいに冷た〜い」
「自分から言っておいて何を……!」
井上の時のように暴力的なツッコミを仕掛けようとも思ったが、幸輔の事だから軽々と避けられるだろう。それを分かっている陽は大人しく引き下がる事にした。
そしてそのまま教室からぞろぞろと出発。
「ねえ龍神君、さっきから何かが私に話し掛けて来るんだけど……どう対処すれば良いかしら」
紗姫が何やらうるさそうにしている。それもそのはず、井上がずっと話し掛けているのだ。イライラした空気が伝わって来る。
「仕方ないだろ、そういう生き物なんだから。変な幽霊に取り憑かれたとでも思っとけ」
「楽観的に見れないわよ、それ?」
「じゃあ知らない外国人が後を付けて来ているとか」
「何でそんな笑えないような危険な例えしか出来ないの?わざわざそんな危ないとこに身を置きたくないわ。今更だけど」
井上への対処法を紗姫に伝授。と言っても、最終手段としての無視なのだが。
「−−それでさー、あれ?どうしたの八雲さん?」
「……」
言い付け通りに無視を決め込んで黙る事にしたらしい。そっぽを向き、出来れば話し掛けるなという合図。
「あ、何でもないなら続けても良いよね?」
「……諦めろ」
小声で諭した。今日の井上はいつも以上に空気が読めないのだと。
助けを求めようにも、月華は幸輔と歓談−−実はそう見えるだけで、話の内容は魔術に関する物だとは気付いていないだけだ−−している。
「ありがとうございます御門先輩!家に帰ったら早速試してみますね」
「まあ月華ちゃんみたいに才能がある人間は成長も早いからね〜。ボクみたいなのならすぐ追い越されちゃうかも」
「才能だなんて……私にはありませんよっ」
笑い合う二人を見て、助け舟が出ない事が分かった。紗姫にはもう、井上のバカ話に付き合うしか手は無い。
「私だけを苦行に遭わせようだなんて思ってないわよね?龍神君は優しいからね?」
「お前それは卑怯じゃないか……?」
伸ばされた影が太ももを圧迫。どうやら陽も道連れにされてしまうみたいだ。
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