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〜龍と刀〜
撤退の騎士
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アスラが立ち尽くすのは見慣れた闇の中ではなく、先程まで戦っていた思い出の場所。自分の騎士としての心を確認するための場所だ。

「まったく……無様な姿ね」

「……返す言葉もありません。事実ですから」

傷だらけの四肢や砕けた鎧。その全てを見て、彼女は言う。

「あなたらしくないわよ?直情的になって剣を振るうだなんて。何があなたをそこまでさせたのかしらね」

アスラの前に漂う彼女は、真っ赤なロングドレスを身に纏い、長く艶やかな髪で顔を隠している。まるで、アスラと同じだ。

「ま、それは良いわ。アスラ、今言いたい事はある?」

「何を言ったところで言い訳にしか聞こえないでしょう。ならば私は、失敗してしまった責任を取るのが定石……甘んじていかなる罰でもお受けします」

片膝を付き、頭を垂れる。それだけ自分の行動に負い目を感じているのだ。
目的を忘れてまで戦い、引き分け、あまつさえ彼女の助けまでもらった。罰を受けるのは当然なのだ。

「私があなたに罰を与えられると思っているなら、まずその考えを捨てなさい?永らく一緒に居るというのに……そんな事も気付けない訳ないわよね?どうなの、アスラ?」

「それは……重々承知しております。貴女様がどれだけ慈悲深い方なのか」

「なら説明はいらないはずよね。私はあなたを罰しない。だから早く傷を癒やして欲しいの。そしてまた、力強いあなたの羽ばたきを見せて?」

彼女の言葉の端々に感じられるのは優しさ。アスラの事をとても大切に思っているのだろう。

「ですが私は……」

「分かってる。だから一つ提案……じゃなくて決定事項があるの」

「決定事項、ですか?」

「そう。さっきあなたの戦いを見て、決めたのよ」

僅かに頭を上げ感心を示した。

「やり方を変えるの。今まではあなたに従ってあの子を一対一の勝負で連れて来ようとした。だけどこれからは違うのよ」

「まさか−−」

「ええ、思ってる通りだと思うわ。これからは一対一ではなくて、質より量で攻めようと思うの。当然、強い者もたくさん送り込むわ」

「恐れながら……そんな事をすれば、周りの人間も黙って見過ごす訳にはいかないはずです」

アスラの言う通りだ。
例え陽一人だけを狙ったものと言えども、彼女の物言いからするにかなりの量を投下するのだろう。それを指をくわえて見ているだけ、という非情な事をするとは思えない。
只でさえ仲間意識の強い者たちなのだから。

「そうね。下手をすれば全面戦争になるかもしれない」

「関係のない人間でも巻き込むつもりですか?」

「……それも仕方ない事なの。私たちのしようとしている事はそれだけ大きい事なのだから」

怒りすら感じさせるアスラの物言いを鎮めるために、彼女は一押し。

「私はね、アスラ。“知っているのよ”」

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