〜龍と刀〜
騎士の心\
お互いの首筋に当てられた銀色の輝き。
それだけが異様に目に付いた。
荒くなる呼気。一瞬でも動けば終わりとなる緊張感。
「……」
「……」
根比べのような状況だ。相手の腹を探るという小さくも大切な行動。
張り詰めた空気を裂くように、足元の空間に亀裂が走る。
アスラからの攻撃かと焦り、相手の顔を見上げた。
しかし、アスラも同様に驚きの表情を作っている。つまり予想外の出来事。アスラはサーベルを滑らし、陽との鍔迫り合いから転がるように離脱。先程からの態度を考えれば、凄い豹変ぶりだ。
地に汚れた鎧に気を払う事もなく、ただ距離を取る。
「なんだ……?」
今にも倒れそうな震える足を無理矢理立たせ、亀裂へと視線を投げた。
亀裂は次第に広がり、人一人が通れそうな大きさになって割れる。中に広がるのは漆黒の空洞。
「どうしてここに……」
アスラが消え入りそうな小声で言うと、空洞の奥からそれに呼応するための声が発せられた。
「身内の心配するのはいけない?」
「いえ、そうではありませんが……」
「なら、別に良いでしょう。今ここで多大な傷を負ってしまうのは得策ではない。だから私が連れ戻しに来たのよ、アスラ」
差し伸べられる優しい声に、陽は一人蚊帳の外。
「さ、帰りましょう」
「……はい」
アスラの背後の景色が揺らぎ、同じく亀裂が走る。そこに身を投げ出し、アスラは姿を消す。
「さて、私のアスラに大変な事をしてくれたわね」
姿無き声が陽を威圧。まるでこの空間全てに流しているかのような大音声。綺麗なソプラノ調の声。
女性だというのは分かった。
「とりあえず……“地にひれ伏してもらうわ”」
呪詛の言葉が紡がれたと思えば、陽の体は無意識に地面へと叩き付けられる。
その言葉の命令通りに。
圧迫される体に呼吸は出来なくなり、骨は軋み、塞ぎ始めた傷口は再び開いて出血する。
「こ、の……ぉ!」
「あら、かなりしぶといのね……“立ち上がるな”」
腕に力を込め、何とか持ち上がった上半身。そこに新たな命令を受け、腕は崩れ、先程同様に地面と衝突。
「ぐうっ……」
「ケホッ、ケホッ……まったく、この体はなかなか合わないわね。今回はこれくらいにしておくから、精々気をつけておくことね」
亀裂の中から聞こえる咳。どうやら命を取られるような事は無いみたいだが、この謎の力からは解放されない。
「はぁ……“あなたも帰って”」
ぐん、と更に大きな圧力とともに陽はアスラの作り出した空間を突き破り、闇に放り出された。
そして、来た時のような浮遊感が体を襲う。
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