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〜龍と刀〜
騎士の心X
何度となくぶつかり合い、ようやくアスラの体にも傷が浮かんで来た。
特に目立つのは左頬を一直線に走る真っ赤な裂傷。相当深そうに見えるが、見た目ほど酷くないのか血は既に止まっており、回復を始めている。
他には、漆黒の鎧。無傷で太陽の光を反射するぐらいに綺麗だった鎧は、泥塗れになりどことなく淀んで見える。

「しぶといですね」

衝突の回数と同じくらい、アスラは陽を力押しで吹き飛ばしていた。
しかし、陽は諦める事などせずに立ち向かう。それは今までの同士たちの戦いの情報を見てみれば分かる話だ。彼に何があるのかは知らないが、強烈な抵抗で同士を退けるほど。
だが、今ならその理由は良く分かる。彼も自分と同じようにある信念を持って戦っていたのだ。内容は違えど、やっている事は近い。だから負けられないというのも、分かる。

「しかし、だからと言って手加減してやる理由はありませんが……」

「いつまでも余裕ぶってると、足元掬われるぜ!」

懲りもせずアスラへと肉迫する陽。全力で距離を詰め、低空を走らせた白銀の刃で膝の辺りを振り抜いた。
アスラはそれを軽いステップで避けると、自身の掌に新たに魔法陣を出現させる。

「出し惜しみはしないと決めましたから。ほぼ、全力でやらせていただきますよ?覚悟は良いですか?」

収束されていく漆黒。渦を巻いて立ち上るそれは、まるで炎のようだった。
次第に大きさを増していく。前にどこかで見たような魔術だ。

「私たちは……いえ、特に私は同士たちからに戦い方を教える代わりに、彼らの戦い方を学んでいるのです」

「つまり、それも誰かの技って事か……?」

「ええ。実際、魔術というのは一本の木みたいな物です。そこから派生した物なら、その時点で誰の物かなどという論議は不必要かと」

「良く分かんねえな」

燃え盛る漆黒の炎を睨み付け、どう対応するべきかと身構える。あの質量を受けきれるのは、『剣凰流』の大技ぐらいだろうが、このタイミングでそれを使用すると、後が大変だ。

「ダメ元で水気使った抜刀で迎え撃つか?」

「無理だろうな。単純な話だが、あれが火気の術と決まった訳ではあるまい?そもそも熱を感じないからな」

「だけどあの大きさを避けるのは難しいぜ?」

「む。それもあるか……」

そうこうしている内に、アスラの手に収まりきらない漆黒の炎は、頭上で発射の時を今か今かと待ち望んでいるかのように脈動していた。

「いや、待てよ?ほんの少しでも止めれば良いんだよな?」

「確かに理屈はそうだが……何をするつもりだ」

「失敗すればヤバいけど成功すればかなり凄いぞ」

陽には何やら突破口が見えたみたいだったが、白銀には話さない。アスラに聞こえてしまうのを防ぐためでもある。

「敵を欺くにはまず味方からって言うだろ」

「難しい言葉を知っているな」

「このくらいは知ってるぞ……?」

白銀に若干傷付けてられた陽だったが、すぐに思考を切り替えた。

「さあ、来いよ!」

陽がアスラに向けて言葉を放ったと同時に、漆黒の炎も落とされる。

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