〜龍と刀〜
束の間の休息
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十六夜が炎を纏った木刀を振るう度、魔物の数は減少する。
例え一斉に掛かっていこうが十六夜には無意味。瞬時に術式を組み上げ、炎の壁を作り上げる。弱い者ほどその熱気に当てられて朽ち果て、跡形も残らない。
「あれで本気じゃないんだから凄いよね〜。剣の腕もあって魔術もかなりの実力。もう化け物クラスだよね〜」
幸輔が呑気にそう言うと、弟子の皆が頷いている。彼らにしてみれば偉大な人物に見えるのだろう。
「それでもあの数を一人で全滅させるっていうのは難しいんじゃない?だから先輩が加勢に行ったら良いと思うわ」
「いやいやいや、あの人と肩を並べて戦うだなんて僕には無理だよ〜」
紗姫が戦闘に加わるようにけしかけるが、幸輔は珍しく謙虚に対応している。
「どうして?」
それを不思議に思った紗姫は声に出して聞いてみた。
「だって僕、まだ死にたくないし〜?あんな戦場に出たら巻き添え食らって焼けちゃうよ?焼け忍者だよ?」
「最後のは良く分からないけど……それが理由だったのね」
自分勝手な理由に肩を落とす紗姫。
しかし、幸輔の言っている事はもっともで、正論なのだ。
今、十六夜の居る、『満月』という防御結界から出てしまったら多分火傷じゃ済まないだろう。
それぐらいの危険を孕んでいる戦場に、わざわざ身を投じる事が出来るだろうか。
「それでさ〜。かなり減ったよね〜?ちょっと前までは隙間なく埋まってるっていう感じだったし〜」
「そこまで言うと大げさな気がするけど……そんな感じだったわね」
「ふむ。あの人間は異常なのだな?でなければあのような芸当を出来るとも思えん。しかし、ワタシのような元神族の力があれば余裕だがな」
「だったらもっと早くズバーン!ってやっちゃおうよ〜」
結界の維持に飽きが来たのか−−完全に飽きられてしまうと、この『満月』が危ないのだが−−月詠が会話に加わって来た。
「そのような事をしたらワタシの依り代に負担が掛かってしまうではないか。それに、ワタシが全力を出してしまったらここら一帯は吹き飛ぶぞ?」
胸を張って言う事ではないと思うのだが、何故か偉そうに語る月詠。
「負担は大きいだろうね〜。両親が超エリートでも、今まで使って無かった神経を使う訳だし〜?後遺症があるかもね〜」
「そうよね……この結界だってそこそこ負担はありそうだけど」
「それなら問題ない。この腕輪に籠もっている魔力を少しずつ頂いておるからな」
そう言って指で腕輪を弾く。
澄んだ短い音色は爆音で掻き消える。
「まぁつまりはね〜。筋肉痛みたいな症状が出るんじゃないか〜っていうね。可愛い言い方に換えると」
「筋肉痛は可愛いのか?」
「いや、筋肉痛自体の意味じゃなくてだね〜」
外は未だ戦闘中だと言うのに、結界内部には穏やかな雰囲気が満ちていた。
これが良い事なのかは分からないが、士気は養えているはずだ。
「じゃあそろそろ僕らも出てみる〜?」
「自分で出たくないって言ったのに……」
束の間の休息を堪能したらしい面々は、戦場へ出るための準備を始めるのだった。
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