〜龍と刀〜
記憶(オモイデ)の場所でY
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アスラは睨み合いという時間を利用して過去を思い返していた。
自分の主と交わした盟約、それを叶えるために今自分は戦っているのだ。
「ならば、情けを掛ける義理は無し……全力でやらせてもらいます」
翼を目一杯広げ、突進。
陽は当然身構えるのだが、遅すぎた。
アスラが空中で動いたと陽が感知した時には、既にアスラは腕を伸ばせば届く距離に。つまり、攻撃圏内に入っているという事だ。
「ふっ……!」
振り抜かれたサーベルは陽の胸元を赤く染める。初撃の深さに気付いて半歩下がっていなければ今ので致命傷だ。
たとえ龍化で再生能力が上がっているとは言え、あくまでも人間よりもほんの少し速い程度。化け物のように急速に皮膚がくっついたりはしないし、流れる血液が凝固したりもしない。
「逃がしません」
「いつまでも……主導権があると思うなよ!」
それに、斬られれば痛みだってあるのだ。
迫って来たアスラのサーベルを白銀で弾き、龍化した右腕を叩き込む。障壁に阻まれようが、とにかく今は反撃の一手を奪う事が先決だ。
「そんな非力な拳など私の障壁の前では無意味−−!?」
アスラが兜の中に覗かせる瞳を大きく見開いた。それが見えるのだから、この行動はそれだけ予想外だったのだろう。
「そろそろ面を拝ませてもらうぜ!」
打ち付けた拳を一度引き、再び突き出す。次は拳ではなく、鋭利な爪を障壁に引っ掛ける。
バチバチと火花を散らしながらも、ほんの少しだけ隙間が出来た。全力で腕を振り下ろす。
その瞬間が陽の狙い目。壊れた障壁の隙間へと白銀の刃をねじ込み、引き裂く。
ついでと言わんばかりにアスラの兜へと向かう。
「この……!邪魔だぁ!」
気合一閃。
障壁を破り、アスラの兜に一太刀を入れた。
遅れて切れ目、そして漆黒の兜が真っ二つに割れてしまう。
中から現れたのは一房の長い前髪、その下に隠された日本人離れした−−そもそも人では無いのだが−−切れ長で青い瞳。パーツの整った、端正な顔立ち。
「陽、伏せろ!」
兜を割った事で少し勝ち誇っていた余韻を白銀の声によって断たれる。
それに反応し、体勢を低くすると、頭上をアスラの足が空を裂きながら通り過ぎていくのが視界に入った。
「私は、未だかつて戦いで相手に顔を見せた事は無いんです。つまり、あなたが初めて私の兜に傷を付けた相手だ……」
「そいつはどうも!光栄に思っておくとするさ!」
再び激突する二人。
流れるアスラの長髪で動きが見えるようになった。
「顔を見せるという事は、相手に表情が読まれるというリスクを背負っているのです」
そう。
それがアスラが全身を漆黒の騎士甲冑で覆っていた理由なのだ。
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