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〜龍と刀〜
盟約の記憶
*****


−−時を遡る事数百年。
この時代はどこでも荒れていたのだろう。
日本と同じように魔物が暴れ、それを防ぐ人間。この構図が崩れた事は無い。
しかし、やはりそれを良く思わない者は必ず存在する。

「行くぞ、アスラ!」

銀色の騎士甲冑の男が叫ぶと、走る彼と並行していた黒い一羽の鳥が。
それはただの鳥ではなく、普通のカラス何かよりも一回り大きい。嘴と胴体には男と同じ銀色の装備品、それは空を駆けながら異形の魔物たちに傷を付けていく。
たちまち彼の周りには傷だらけの魔物の山が完成する。

「アスラもう良いぞ。良くやった」

彼の言葉に反応して一羽の鳥−−アスラが戻ってきた。それを肩に乗せて頭を撫でてやる。

「マーワルド様!どうして、どうしてこいつらを滅さないのです!」

満足げに魔物たちを見ていたマーワルドに部下の青年が声を荒げた。
それも当然だろう。青年の言う通り、アスラによって傷付けられた魔物たちはまだ息がある。放っておけば、いずれ回復して動き出す。

「良いんだよ、これで。俺たちは別にこのモンスター共を根絶やしにするために戦ってるんじゃないんだ」

「し、しかしですね!−−」

「あぁお前の言いたい事も、皆が思っている事も、全て分かっているはず」

腰に携えられたサーベル。その柄に手を置き、続けた。

「モンスター共に家族を、恋人を、仲間を奪われた。だからこいつらを滅ぼして復讐してやりたい……違うか」

威圧を漂わせ、しかし優しいマーワルドの言葉。
それは青年やその仲間だけでなく、肩に乗るアスラの小さな心にもしっかりと届いていた。

「こいつらが人間を襲うのはな、俺たち人間がこいつらを恐れ、嫌っているから……だから、攻撃を受けないように先手を打つ」

「マーワルド様は……モンスターの気持ちが分かるのですか?」

「いや分からん」

質問をことごとく打ち破り、そっぽを向く。余りに無責任な言葉に、皆は怒りを忘れ呆然としている。

「分からん、とは言ったがこれはあるモンスターから聞いた言葉だぞ?病弱な身内ために、単身で人間に加担する優しい魔物の、な」

騎士甲冑の中は笑顔に満ちたマーワルドの顔が。そして、その言葉を言った張本人へ向けてこう言った。

「だから俺たちの国家はモンスターだろうが徹底的に助ける。……絶対に殺さず、同じ道を、同じ世界を生きてもらうためにな」

「……マーワルド様、私が間違っていたようです」

「いや、いつか話さねばならんとは思っていた。ちょうど良い機会だったんだ」

青年の兜をバシバシと叩き、次の進軍地へと向かう準備に掛かる。

「あれはお前がくれた約束だ。アスラ、次は俺が約束していいか?」

言葉を持たないアスラは鳴き声で答えた。

「そう、これは盟約だ。破らない事……いつの日か−−」


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