〜龍と刀〜
記憶(オモイデ)の場所でW
地形ごと飲み干しながら突き進む漆黒の濁流は、唸りを上げて陽に向かって流れ行く。
「加減はしてありますが、保証は出来ません」
冷たく、刺さるような一言を投げ魔法陣を解くアスラ。勝利を確信したのか翼を仕舞い、飲み込まれていく陽の姿を見送っていた。
「……」
あくまでも確信で、確固とした証拠がある訳ではない。鋭い眼光で濁流を凝視しつつ、手に持ったサーベルを構える。
「はは、二十枚も使っちまったな……今のでいくら消えたんだろ……」
その声とともに、濁流が見事なまでに横に逸れた。本来の威力を保ったまま軌道を逸らした濁流は、地面を根こそぎ破壊しながら直進。標的を失ってしまったからなのか木々を巻き込んで爆発。
「さすがに今のが当たってたらマズかった。うわ、ミステリーサークルみたいだ」
「ふむ……我が力を貸さずともこの防御力、値は張るがなかなか良い買い物をしたな」
白銀の刀身を盾にするように腕を出していたのは、体の至る所に裂傷を携えた陽だった。
「お?驚いてるみたいだな?」
何やら楽しげに語る陽の周りをハラハラと舞うのは細切れになった−−
「紙……?」
「こっちの魔術には式紙ってのがあるんだよ。それで、さっきのが強い防御の術式を込めた式紙さ」
舞っている式紙の一部を掴み、見せびらかせるようにもう一度放す。
「まだ奥の手を隠していたんですね」
「ああ。言ったろ?出し惜しみしてられる相手じゃないって」
その言葉を聞いた途端、兜の先にある瞳に色が灯されたような気がした。完全に本気を出すまで攻撃の主導権を握っておきたいらしい。
目にも留まらぬ速さで陽へと肉薄。サーベルによる刺突が繰り出された。
「……なら、全てを出し切るのが賢明な判断では?」
「そんな簡単な話でもないだろ!」
切られる頬、流れる鮮血。痛みすら感じる暇は無く、ただ攻撃を避ける。
後退していた足が何かに引っかかり、陽の体が不安定に。
「くっ……」
もちろアスラはその隙を見逃さない。鋭いサーベルの切っ先が陽の胸を目掛けて飛んでいく。
倒れていく体に感じるのは独特の浮遊感と焦り。
何か、今出来る事は……。
「これでも、喰らえ!」
とっさに集めた水気をアスラの兜に向けて放つ。ちょっとした目眩ましが出来ると思ったのだ。
「小細工が私に通用するとでも?」
展開される魔法陣。どうやら陽の魔術は防がれてしまうらしい。
だが、ほんの少し気を逸らす事が陽の目的。
「残念……オトリだ」
倒れた手に握られたのは一握の草の束だ。それを燃やし、アスラの足元にある草へと投げ込む。当然火は燃え広がり、小さな火事現場が完成する。
足止めになれば充分だった。
「どこまでも小細工を……」
アスラの悪態は火を消すための一振りによって掻き消される。
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