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〜龍と刀〜
統率者
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陽とアスラが別の空間に移動した、その後。
魔物が多数うごめく戦場に残った面々は、波のように押し寄せる軍勢に苦戦を強いられていた。

「こんなんじゃキリが無いぞ!?」

「広域魔術が使えれば……」

「また来やがった!もう、いい加減にぃ!」

あまり戦闘経験の深くなさそうな『金鳳流』の弟子たちにはかなりの重労働になっているみたいだ。
ボロボロになった仲間を庇い傷付く者、自暴自棄になり突進を仕掛ける者。まったく統率が取れていない部隊は滅びるのが最終的な結末。それを防ぐには誰かが頂点に立たなければならない。

「さすがに、骨が折れるわね……」

刃こぼれした大剣を捨て、新たに影で大剣を生み出す。

「一体いくら湧いてくるつもりなの?むしろこの数を相手にするにはこっちの人数が足りないわ!」

「確かにそうだよね〜。でも、人数が増えたら結界も大きくしなきゃ味方同士でやり合うかもしれないし?結界外への干渉も大きくなるからさ〜、協会も下手に人員を増やせないんじゃないかな〜?」

手に握ったクナイをくるくると弄びながら言う幸輔も、だいぶ疲労の色が濃くなってきている。

「仕方ない。ワタシが『満月』で時間を稼ごう……その間は一時休息にしようではないか」

手にした光の剣、『半月』を消して、新しく防御用の結界の『満月』の使用を試みる月詠だったのだが……。

「集まらないね〜」

「人の話聞いてたの、あの人たち?せっかく休憩が取れるって言うのに」

一部の弟子たちは自分自身を守るのが精一杯らしく、勝手に行動しどんどん傷付く者が増加。せっかくの月詠の気遣いが分かっていないみたいだ。

「……おい、狐の少女と忍の少年。それと他の手の空いてる者。奴らを連れ戻せ」

「は?君、いくら頭首の娘さんだからって年上の人間に命令だなんて−−」

白髪が混じり始めた中年の男性が月詠の言葉を聞き入れずに反論を行うと、月詠は目をキッと細めてこう告げた。

「今ワタシはお前の知っているであろう鳳 月華と言う人間は、ワタシの中で眠っている。それにワタシは神なのだぞ?人間に命令して何が悪い?答えてみるがいいぞ」

「そんな、子供騙しみたいな事が……」

「でも実際、月華ちゃんはこんなに性格ひねくれてないわよ。それを見抜けないようじゃ……あ、そうだ。十六夜さんに伝えれば良いのかしら」

「頭首に!?そんな事されたら立場が……存在ごと、消される!」

頭を抱えて震える男は、月詠と紗姫の言葉をようやく信じたみたいだ。
一部始終を見ていた弟子たちも顔を見合わせて震えている。十六夜がどんな仕打ちをしていたのが良く分かる光景だ。

「あの人、かな〜り怖がられてるみたいだね?」

「そうね……私もここまで効果がある一言になるなんて予想も出来なかったわ」

「ふむ。これで分かったか?だったら、今からワタシの言う事は全て頭首の言葉だと思って聞き入れるんだぞ、人間諸君」

威勢の良い返事に満足感たっぷりの表情を浮かべて頷く月詠。

「ここからはワタシが……この戦場の統率者だ!」

右腕を高くかざして宣言した。


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