〜龍と刀〜
余裕の態度
ゆったりとした動作で地に足を着けるアスラ。翼を折り畳み、最小限の大きさに。
「今度こそ、あなたを連れて行きます」
鎧で隠された指を陽に向け、宣誓。場は波を打ったように静寂、それから瞬く間に魔物側の士気が上がる。
「アスラだったよな?俺を連れて行く事に意味はあるのか?お前らがやろうとしてる事は一体何だ!」
「答え兼ねます」
「じゃあ最近魔物が街を襲っているのは!」
「……答え兼ねます」
最初から答える気など皆無なのか、アスラはもう臨戦態勢に入っていた。腰のサーベルは抜かず、拳を構える。
「さあ、二人とも。そこを退いてくれるか?俺はあいつをぶっ倒すんだから」
「何言ってるのよ。ここまで来てあげた理由、まさか分からない訳ないでしょ?」
「そうだぞ少年?負ける心配をしているみたいだが、ワタシが加勢してやるのだ。敗北の二文字は霧散したも同然」
「っとと、僕も忘れないでくれよ〜……こっちはちょっと忙しいけど〜」
陽が心配していたのは敗北ではなく、周囲の人間を巻き込んでしまう事だったのだが、それが伝わっていない面々はアスラと対峙する気に満ちていた。
「いや、気持ちは嬉しいけど……これは俺の問題だし−−」
「私なら別に構いませんが。盟主の邪魔になる要素があるなら、排除するだけですから」
アスラは陽たちを自分と同等の敵だとは思っていないらしく、自信に溢れた態度が見ても分かる。
「そういう事らしいわよ?どうするの?」
「だけど!」
「男ならはっきりしろ少年よ。まあ、何と言われようがワタシはあのいけ好かない西の鳥を叩き潰すがな」
言いながら、月詠はすでに攻撃を開始したみたいだ。出現させた光の弾丸でアスラを狙い撃つ。
当然のごとくそれは腕の一振りで弾かれ、流れ弾は魔物たちではなく弟子たちへと飛んで行くのだ。そこまで計算に入れてやったとしたら、何とも恐ろしい相手である。
「ほお。さすがにこの程度じゃどうにもならんようだな」
「かと言って、あなたのような生身の人間が私に傷を付けられるとでも?」
「ちょっ……気付くの速いよ〜」
アスラの背後、両の拳を重ね合わせて振りかぶった幸輔。いつもの間延びした声にも焦りと緊張が含まれている。
「何て、忍者の一族が気配を悟らせる訳ないじゃないか〜。あははは〜」
「……!」
これにはアスラも驚いたみたいで、いきなり現れた“もう一人”の幸輔に対応しようと足を上げた。
「残念、少し動かないでよ?」
体を捻って蹴りを与えようとしたアスラだったが、動きを完全に抑制される。
「これは……影?」
「そ。ご明察、先輩、お願いしますね」
「あいあいさ〜!これは、結構痛いと思うよ〜?」
いつしか手に握っていたクナイの切っ先をアスラの肩口から袈裟斬り。
火花を散らす漆黒の鎧。
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