〜龍と刀〜
罠……?
跳躍の術式というのは、点と点を結びその間をまさに跳ぶように移動するのだ。
つまり、移動地点に魔法陣が埋め込まれていないといけない訳だが。
「それはね?昔から使ってる移動経路ってのがあるから、それを使えば問題無し、という事さ〜」
「そんな便利な物が……」
「移動地点に人、障害物があったりしたら別の場所に飛ばされるんだけどね〜。だからほとんどの陣は使えないんだよ」
幸輔の話では、先人たちは常にその経路を使っていたらしく、今でも使える魔法陣は存在し、使われる事を待っているとか。
「それが今の場所にも運良く存在していた、と……」
「そういう事。それでさ〜、この状況は一体何なの?呼び出した場所、ここで合ってるよね龍神?」
「確かにここって言ってたし、結界もある。じゃあ、どうして……」
到着していたのは、協会側の人間に呼び出された街の中心部。結界のある、この場所のはずだ。
しかし、現にここでは何も起こっていなかった。ただ、人払いされた空間が用意されているだけ。
「はは、まさか罠とか〜?」
「可能性を否定出来ませんよね。だったら−−」
ポケットに手を突っ込み、一枚の紙切れに魔力を流す。
その中からゆっくりと銀色の刀を引き抜く。
「−−迎え撃つに決まってる」
「連絡も付かない以上、結局そうするしか無いんだよね〜」
幸輔は制服の袖を無造作に捲り上げ、あるであろう来客を待つ二人。どこから来ても、仕留めるだけだ。
「こうやって二人で戦うのってもしかして初めてじゃない?」
「あ、そういえば……先輩のまともな実力を見た事は無い気が」
「いやいや〜僕なんて全然だよ〜。ちょこっと人より速いだけだからさ」
そうは言う幸輔だが、生身の人間というのには限界がある−−周りには限界など感じさせない十六夜も居るが、あれは例外中の例外−−。それであの軽やかな動きを見せるなら、それこそ凄い事だ。
「それに、剣術じゃあ龍神には勝てないしさ……っと、来るよ〜」
口調もいつもと同じで、構えも取らない幸輔。しかし、その言葉に偽りは無いだろう。雰囲気が物語っている。
「あながち嘘とも言えない状況だね。この数は……骨が折れるね〜まったく」
「間違ってるといえば、上空じゃなくてビルの中ですね。今まで隠れてやがったのか?暇な奴らだ」
二人を囲むようにしているのは複数の異形の化け物だ。ガラスやコンクリートの壁を突き破り、現れた。
「でも、こんな事したら十六夜さんやらが黙ってる訳が無いんじゃ?」
「それがね……今日は頭首会議でウチのじっちゃんも京都行きさ〜。だから、まともに戦えるであろう人間は僕らと、お弟子さんたちぐらいだからね」
「狙って来たって訳か」
睨み合いは長く続く。相手の数は、数えたくもなくなるくらいウヨウヨ居る。一体ずつ倒していたらかなり体力が消耗してしまうのは目に見えているが、かと言ってむやみやたらに魔術を放つのも得策では無いと思う。
「仕方ない、二人で行けるとこまでやってみよ〜」
「何でそんな楽しそうなをですか……」
「え?百人組み手みたいじゃん」
呑気な事を言いながらも、幸輔は軍勢に立ち向かっていく。
「俺もやるか」
「うむ。遅れは取るなよ」
白銀を構え、幸輔とは別の方向に。
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