〜龍と刀〜
的中
残すところ一時間。もう一つ授業を乗り越えれば、あとは帰宅するだけだ。
そんな期待と気だるさが並行する休み時間、陽の携帯電話に着信が入る。
「はい、もしもし?」
『どうも。協会の者です……頭首様でいらっしゃいますね?』
「そうですが。……何か?」
只ならぬ気配を感じ取り、周りを気にして小声に。
『時間があまり無いので、手短に説明します。今、街上空に強い魔力反応が確認されました』
「上空……?」
『そこから近い場所に。これより結界にて周囲を覆い、街を守ります。現地には金鳳、御門の両頭首並びに協会の魔術師多数が集結しております』
陽は窓から外を見たが、感じられる事は無い。つまり、分厚い雲に覆われた更に向こうということになる。
「それで、俺に何をしろと?」
『直ちに現地に直行、戦闘に加わるようにと、長からのご命令です』
「相手が多いんですか?だとしてもあの二人に任せておけば……」
実際のところ、そうなのだ。陽の数倍も強い二人に、協会側の人間が数人。それだけ居れば充分過ぎるほど。
それに、敵の狙いは陽。わざわざ危険に冒してまで戦地に赴かせる必要は無いはずだ。
「それが必要だということは、余程の……?」
自分のせいで巻き込まれているなら、やはり行かなければならない。最終的に、その心が陽を動かした。
「分かりました。場所は−−」
そうこうしている内に、学校から見える中心街にドーム状の結界が出現。位置もバッチリだ。
「大丈夫ですね。では、行きます」
『了解です。ご武運を』
陽が電話を終え、立ち上がった瞬間。狙いすましたかのようなタイミングでチャイムが鳴り響いた。
次の授業の合図。
「あー龍神、どうした?」
「……ちょっと急用を思い出したので全速力で家に帰ろうかと。ダメですか?」
「もちろんダメに決まってる−−ってこら!」
騒ぎ立てる教師を問答無用で無視、教室を出てから携帯電話を開き、メールを打つ。相手は月華と紗姫。
月華は月詠を宿しているため結界を感知しているだろうし、紗姫はやらないとあとが怖いからだ。
「ちょっと出掛けて来る、と。送信」
最低限重要な事を打ち込むと、陽は走り出す。目的の場所までは走ってもそれなりに時間が掛かる。かといって協力者が居る訳でもなし。
「仕方ないけど……走るか」
「やあやあ龍神、どうやらお困りのようだね〜?僕で良ければ力を貸すよ〜」
校門に背中を預けて待っていたのは幸輔だった。当然、『御門流』の一員の幸輔も呼ばれたのだろう。
「まったく、面倒だよね〜……こちとら授業受けなきゃいけないってのにさ〜」
「立ち話してる余裕はあるんですか?」
「龍神はせっかちだな〜。じゃあ、とりあえずそこに立ってね〜」
幸輔が指差した先にあるのは、白昼堂々地面に描かれた魔法陣。
「これは……」
「ん?跳躍の術式〜。あっちまで走るのとかダルいし?ちゃっちゃと行こうよ」
「ダルいって……いやまあ確かにそうですけど」
陽が円の中心に立つと、魔法陣に光が走る。その線が一本に繋がった時、陽の体は優しい輝きに包まれた。
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