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〜龍と刀〜
目的遂行のために
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「まだ、全然集まりませんね……人間に対抗する力があるのは厄介極まりない」

夜の帳に覆われた星空に悠々と滞空するのは、全身を黒で包んだアスラ。
彼が思案するは目的遂行に必要な、魔力を集める事。そのために『永遠の闇』に属する魔物たちに知識を持たせ、動かしているのだ。
だがそれは、陽や十六夜と言った強力な人間たちに阻まれてほとんど成功していない。
知識を与えた魔物は自身に奢り、世を謳歌しようと自由を求めるし、かと言って与えなければ行動する意味すら保たないただの戦闘要員。そこに意味は見いだせない。

「やはり、私も動かなければなりませんか」

眼下には自身の鍛えた魔物たちが意志を持って戦っている。だが、人間たちはそれに怯む事すらせず、果敢に立ち向かっては傷付いて。傷付いてもその歩みは止めず、反撃を目論む。

「……しぶとい」

つい、本音が漏れてしまった。今まではこんな事は無かったのに、陽と対峙してからだろうか。感情を露わにしてしまう事が多くなってきたアスラ。
心の支え−−シルフィードとウンディーネだろうか−−を自身の手で葬ってしまったこと。彼女には全ての感情を押し殺した答えを返したが、少なくとも旧知の仲間を殺めた事を良く思える者ではないのだ。騎士としての心は、まだ生きているのだから。
再び眼下を見る。
状況は劣勢だ。やはり、頭数だけ揃えても足止め程度にしかならない。目的を達成するには力が、足りないのだ。

「仕方が、ありませんね……私が行きましょう」

背中の黒翼を夜空一杯に広げると、頭を下に向け急降下。鎧が星の瞬きを鏡のように反射し、幻想的な光景を映し出す。

「なっ……新手か!?」

「構わん!撃ち落とせぇ!」

アスラの出現により、戦場は更に活気を増す。
魔術師の誰かがアスラに向けて雷を放った。バチバチと音を立て、数本の槍へと変化。その全てがアスラ目掛け突き刺さる。

「やったか!」

「手応えなら、バッチリです!あれだけの電流を流せば大抵の敵は−−」

爆発を見届ける魔術師と魔物。今、この戦場では全ての視線がアスラの動向へと向けられている。
その期待に応えるように立ち上る煙は逆巻き、消滅。

「なに……まさか……無傷、だと?」

「そんな!どうして」

驚き、不安、恐怖、歓喜、様々な感情が入り乱れる中、アスラは登場した。
漆黒の鎧は先程よりも輝いて見え、あくまでも優雅に空中を漂っている。まるで何事も無かったかのように平然と。
ただ違うのは、右手に抜かれたサーベルがある事だ。

「あなた方には、盟主の礎となってもらいます。覚悟はよろしいでしょうか」

切っ先を向けて威圧を放つ。ほんの少し角度を変えるだけで、アスラのサーベルには殺意の色が浮上する。
きっと兜の向こうにある瞳にも、同じ色が映っているのだろう。

「それでは……参ります。痛みは与えません」

アスラの両足が地面に着いた時にはもう、勝敗は決していた。


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あきゅろす。
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