[携帯モード] [URL送信]

〜龍と刀〜
襲撃者U
熊と位置が入れ替わった時、三人の無事はちゃんと確認された。
結界を張ったのはやはり琉奈で、月華の無意識下では、月詠が維持に一役買っているらしい。

「紗姫、手伝えるか?」

「ええ。別に構わないわよ」

「あのー凄く言いにくいんだけど、この結界はあくまで自己防衛用で、中から出る事は出来ないの。そ、その代わり強度はバッチリだから安心して!」

すっくと立ち上がった紗姫の腕を引っ張る琉奈。どうやら本当に出る事は出来ないらしく、紗姫が結界に触れても何も起きない。
この程度の相手ならば陽一人でも充分なのだろうが、月華に“この世界”を知ってもらうには影を使える紗姫に非現実的な事をしてもらいたかったのだ。
陽のは剣術主体で、知識が無い人から見れば『金鳳流』の型も『剣凰流』の型も同じに感じるだろう。十六夜のだけは特に変則的だが、弟子たちはちゃんとした『金鳳流』の動きに則っている。

「陽、来るぞ!」

白銀の声に応じてか、熊の力強い攻撃が放たれた。天井を引き裂き、それでも勢いを殺す事なく獲物−−陽へと向かう。

「あぶな−−」

「大丈夫。陽君はずっとこうして来たんだから、あのくらいどうって事ないの。そうよね、紗姫ちゃん?」

「龍神君は、絶対大丈夫よ。今のでやられるくらいなら、やっていけないわよ」

心配している月華に琉奈と紗姫が優しく微笑み掛ける。
二人の言った通り、陽は熊の腕を軽い動きで避け、懐へ侵入。と言っても、図体が大きいため侵入したとは言えないのかもしれないが。
そして、一閃。刹那の煌めきが熊の胴体を駆け抜けた。

「おいおい……硬すぎだろ?皮膚じゃねえ」

「いや、違うぞ。刃が皮膚に届く前に獣毛で阻まれているな……となると」

「燃やすしかない、か!」

弾かれた白銀が冷静に分析し、打開策を発見。熊の足が迫ったのを寸でのところで交わし、背後を取る。
熊はそのまま床を貫き、嵌った足を引っこ抜こうともがいているが、自身の体重を支えられないのか床を殴って穴を増やすばかりだ。
これを好機と見た陽は目を閉じ、左手に魔力を集める。手の平に熱が収束していくのが感じられ、ほんの数秒後には小さな火の玉が形成された。雹との戦い以降、この魔術に関してはそこそこ扱えるようになってきたのだ。

「ふ……」

回転しながら大きくなっていく火の玉は、ようやく野球ボールくらいの大きさに。今の陽が出来るのはここまでだ。これ以上やると、周囲を爆発に巻き込みかねない。

「限界か……動くなよ……」

白銀と火の玉を持ち替え、足を大きく広げた。まるでそれは、ピッチャーが投球するようなフォーム。

「いっけえぇ!」

全力で投げられた剛球は、火花を散らしながら熊の背中に−−命中した。

「よっしゃ、当たったぞ!」

「見れば分かる。さっさと動かぬか」

燃え上がる炎に苦しむ熊。バチバチと嫌な音と臭いが充満した穴凹だらけの道場。その隙間を軽やかに飛ぶのは陽だ。

「ガアアアァア!!」

最後の抵抗なのか、巨大な腕を無心のままに振り回し壁なども全て薙ぎ払っている。

「……終わりだ」

その眼前、白銀を振り上げた陽が立っていたのだ。
高い金属音と、眩い光が熊の体を真っ二つに引き裂いた。

[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!