〜龍と刀〜
おまけ〜スタコンと井上〜
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−−時は戻り文化祭二日目。
陽の代役としてスタコンに出場出来る事になり、今現在、井上は舞台裏で何をやろうかと考えていた。
「あ、あいつは確か……サッカー部のエースじゃねえか?へえぇ得意のサッカーでアピール、ね」
周りをじっくりと観察し始めると、選ばれた人間は何かしらのアピールをするための小道具を準備しているみたいだ。何とも準備が良すぎると言うか、自信家と言うか。
「やる気満々だなぁみんな……ま、俺にかなう訳無いけどね!!」
さすがは井上だ。空気を一気に緊張状態に持っていく。本人は気付いていないみたいだが、一触即発な雰囲気である。
「んーそれにしても、何をやれば良いのかな?」
特技と言えるモノはこれといって無いし、秀でて出来るスポーツがある訳でもない。それに、エントリー名は陽のままだ。まずは、そこをどうにかしなくてはいけないのだが。
そんな中、体育館の方から歓声(井上思うところの女子からの黄色い声)が響いて来た。
今まで沈黙を払っていた選ばれし者たちの目つき、形相が変わる。ある者は身だしなみを、またある者はボールを念入りにチェックし始めた。
欲望に忠実なんだろう。
「よーし!決めたぜ!」
井上はアピールする事を決めたらしく、無駄に上がったテンションを発散させようとしている。
上機嫌に鼻歌なぞを歌ったりしていると、早速井上の出番になった。
『ええー続いてはエントリーナンバー19番!一年生の龍神 陽君です!』
司会の挨拶とともに、井上は颯爽と舞台へと飛び出す。
「龍神は都合により今日は来れなくなったあ!代わりに、俺、井上 和真の姿を焼き付けろぉー!」
反響する声。
静まり返る場内。
そして、
「帰れ・帰れ・帰れ……!」
盛大な“帰れコール”。
『乱入ですね。あー係の皆さん、お願いします……』
申し訳なさそうに司会が言うと、舞台袖からはガッチリとした体型の大男が数人。
「はぁ!?ちょっと待てよ!痛い、痛いってば……やめ−−」
『えー乱入は毎年あるのでラグビー部に警護させてるんですよ。それでは、気を取り直して!』
井上が連行させられるのを無視して、スタコンは続けられた。
井上の野望は、何かをする前に打ち砕かれてしまったのだ。残念な事に。
「くっそー!!来年こそは!覚えてやがれよ!!」
井上は有名になった。色んな意味で。
おまけ 終
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