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〜龍と刀〜
選んだ道
「んん……っ」

眠たい目を擦るようにして瞳を開いたのは、月詠ではなく月華だった。

「お父さん?あれ?ここは……あ、そうなんだ……」

どうやら月詠と会話を行えるらしく、時折部屋の惨状を見ては独り言を呟いている。記憶の整理、というやつだろうか。

「あのお姉ちゃんの事も思い出した……お父さんや陽ちゃんの叔父さんが探しに来てくれた事も。全部」

「そうか」

「うん。何があったのかもお姉ちゃん……月詠さんから聞いたよ?お父さんは、またお姉ちゃんをイジメようとしたの?」

責めるような瞳。それを真っ向から受け止める十六夜。

「今なら月詠さんが悪い事をしてたのも理解出来るよ。でも、月詠さんはそれからずっと、今の今まで私を助けてくれてたんだよ」

「それなら聞いた。だが、それを抜きにしてもそいつは消えなきゃならないんだ」

居心地が悪くなってきた陽は、そろりと部屋から脱出を図っていた。当然、十六夜にはバレるだろうが、何も言わないだろう。むしろ、居ない方が話しやすいかもしれない。なるべく音を立てないように注意を払い、戸へ向かう。
そんな陽は無視して、十六夜は話を進める。

「月華は……父さんたちのような危険に足を突っ込む必要は無いんだ。今ならまだ、引き返せる」

事実。月華を依り代としている月詠を消してしまえば、月華は戦う力を持てなくなる。例え、本人に元からある魔力が他の人の数倍という、遺伝的な物があったとしてもだ。
必要な魔力の量、魔力の流れ、術式の構成、そして自身の力量。それらが備わっていても、魔術と呼べる物を使えるようになるのには相応な年数が必要不可欠。

「お父さんも私の事を守ってくれた。やっぱりお母さんもだよね……私にも何かやれるなら、それをやらなきゃ!」

「魔術にしても、剣術にしても月華のような体じゃ受けきれるもんじゃねえんだ……あいつにしたってそうだ。何年もやっているからこそ、戦っている」

身近に居る分かりやすい例だ。特に陽は幼い頃から剣を握って来た。だから今も剣を振っていられる。

「達彦の言葉だがな、あいつの持っている剣ってのは守るための剣らしい。それを心に刻んでるあいつは……少なくとも守る対象として月華を見ているはずだ」

「陽ちゃんが……?」

「言いたくは無い。だが、確かに腕はある。俺様に比べればまだまだだ!しかしまあ、留守を任せられる程度にはな」

陽が居ないのを良い事に、普段なら絶対に口にしない言葉を放つ。
月華を止めるため、話の引き合いに出しているだけなのかもしれないが。

「どうだ?考え直す気になったか?」

「……」

沈黙。月詠と話をしているらしく、相槌を打っている月華。

「うん。そうだね……お父さんの言う通りにする」

「本当か!一時はどうなる事かと心配したが……」

心底安堵した十六夜は、良い意味で肩を落とす。そして、新しいタバコに手を置く。

「でね?お父さんにお願いがあるの」

「おう。何でも言うと良いぞ」

「いきなり戦う、って言われてもいまいち実感が分からないから、お父さんに魔術っていうのを教えて欲しいの!」

火の無いタバコを取り落とし、唖然とする十六夜。ついに頭を抱えてしまう。
キラキラと目を輝かせてそう言う月華に、結論を出してしまった。

「分かった。だが、攻撃魔術は教えんぞ?……じゃない!今のはナシだ!忘れろ!」

「良かったぁ。断られるかと思ってドキドキしたよー」

「話を聞けぇ!」

こうして月華は月詠という強大な味方を付け、戦場に立つ事になる。しかしその心に迷いは無く、曲げるつもりもない。

「お父さん」

「何でそんなとこは琉奈に似る……ん?なんだ?」

「今までありがとう!これからもよろしくお願いします!」

とびっきりの笑顔で、感謝を表す。これが、月華の選んだ道だ。




〜龍と刀〜
第8章「語られる過去」 終

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あきゅろす。
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