〜龍と刀〜
過去]W 封印
降り下ろされた灼熱に、安らかな眠りを求めて目を閉じる。
「……?」
しかし、一向に業火が身を焼く気配が無い。自分が気付いていないだけで、もしかしたらもう魂という存在に成り果てたのではないか、とも思い、目を開く。
「なに、が、起こっておる?」
死んではいないようだ。まだ意識があるし、指も動く。
人影。ぼんやりと見えた情報はまずそれだった。次に、声。
「そこを退くんだ」
「イヤ!」
立ちはだかっている人影が、十六夜の声を遮った。次第に焦点が合い、人物を確認出来るまでになる。
「何故だ?こいつはお前を利用しようとしたし、大勢の人に迷惑を掛けたんだぞ?簡単に言うなら、悪いやつだ」
熱気はとうに収まり、涼やかな風が吹くだけだ。
「違うもん!このお姉ちゃんは、道に迷った私を助けてくれたんだよ!それにご飯も作ってくれたもん!絶対、悪くない!」
「月華、頼むから父さんの言う事を……」
少女−−月華はまるで月詠を守るような形で十六夜と向き合っている。涙声になりながらも必死に反論。
「うっ……何が、どうなって……?」
「起きちゃダメ!ケガ、してるから!」
月華は呻いた月詠を制止し、横に屈み込む。何が何でも、十六夜には手を出させないつもりらしい。
「ワタシの事は良いんだ……親の言う事はしっかりと聞くモノだぞ?」
「あ、しゃべったら、血が!」
「この程度、なら……余裕だぞ。慣れているからな」
再生が追い付いていないのか、再生する気が無いのか分からないが、口の端から赤い液体を漏らしながらも笑みを見せる。
このような状態になってしまっては、さすがの十六夜でも手を出せないみたいだ。イライラを募らせながらも、行動には移さない。
「ねえ……元神族さん。あなたは人間と共に歩もうという気はあるかい?」
これを好機と見た達彦が割って入る。月華はびくりと肩を震わせ、相変わらず警戒を解いてくれそうにない。
「達彦?貴様何をしようと−−」
「まあまあ、今は僕に任せてくれないか?それに、判断を下すのは僕じゃないと言ったでしょ?次に判断をするのは……月詠さん、あなただ」
いつになく真剣な目をして、倒れた月詠の瞳に訴えかける。
達彦の真意がどこにあるのか、読み取れない。それは十六夜も同じだった。
「人間と、共に……だと?生き恥を晒せと言うのか?」
「罪があるなら背負えば良い。償いが命を絶つだけだとは思わないで」
射抜くような眼差し。そこに隠された思いが理解出来たのは、陽のみ。
それは、優しさ。種族という壁など関係なく接しようという。
「実体は持てなくなるだろうし、勝手に動き回る事すら出来ないだろうけど……それでも良いなら」
「おじさんは、お姉ちゃんを助けてくれるの?」
「もちろんさ。だからもう泣かないで」
キョトンとした顔で聞いてきたのは月華。
その頭を撫でてあげ、それから、不審そうに眉をひそめている十六夜に言葉を。
「封印、なんてどうかなと思うんだけど」
「……協会が見逃すか?」
「何とかする」
「適当だな」
「僕だからね」
懐からタバコを取り出し、火を点けると十六夜は背を向け、
「月華、早く帰って来いよ?明日は誕生日なんだからな」
そう言って木刀を肩に置き、歩き去る。
「答えは……決まっているみたいだね」
「当然だ」
こうして達彦は、月詠封印への作業を開始するのであった。
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