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〜龍と刀〜
過去]U 理由
縦横無尽に駆け巡る刃の軌跡が重なるように、ブツブツと音を立てて光の糸を切断。

「ほぅ……なかなかやるではないか。さながら蜘蛛の魔手から“偶然”抜け出した蝶のようだ」

「はは。偶然は余計、さ」

血振りする動作で両手の刀を振るい、完全に立ち上がる。それと同時、張り巡らされていた蜘蛛の巣は何事も無かったかのように霧散。残骸すらも残さずに。

「よくもまあ神族の力を目の前に立ち向かう……人間よ、何故剣を持つ?命を懸けてまで戦う理由を持っておるのか?」

半ば呆れた口調で達彦に問う。その声色には神族としての慈悲や優しさなんて物が含まれているのかもしれない。

「……愚問だね。僕が持っているのは、戦うための剣じゃないし、ましてや、相手を殺すための剣でもない」

一度目を閉じ、紡ぐ言葉を整理する。

「そう。僕の剣は守るための剣だよ。奪う剣じゃなく、何かを産み、育む剣だからね。それを教えているのさ」

「宝刀白銀を持っていてもか?」

「これだけは譲れないし、譲らない」

深く腰を落とし、白銀の切っ先を離れた月詠へと向けた。

「僕からも一つ聞こう。貴女のような強大な神族ともあろう方が、どうしてこんな事を?」

月詠は邪魔そうに、顔に張り付いた長い前髪を払う。そこから垣間見えたのは、月のように綺麗な、金の瞳。映るのは悲しみか、それとも哀れみか。

「ワタシは、失恋したのだよ人間。神と言われながらもある男を愛した……しかしそれが報われる事は無く、奴は別の神と番(ツガイ)になったのだ」

「その、腹いせに?」

「違うな。力の誇示だ……愚かなワタシは罪もない子供らの、純粋な魔力を集め、奴を振り向かせようとしていた。……怒るなら怒れ、人間。その資格はある」

まるで自分の罪を認めているかのような発言に、達彦は何と答えれば良いか分からず立ち尽くす。

「ワタシの罪を確固たる物にしてくれたのが、あそこで眠っている娘だ。彼女の優しさが、今更になって心の奥底に染み渡ってな……愚かだよワタシは」

「達彦」

どう動くべきなのか、と良心に問いかけていた達彦に白銀からの声が届く。

「敵は、敵だ。お前が守るための剣を持つのなら、ここはあの魔族を−−いや、脇道に逸れた神族を導いてやるのが道理であろう?」

「人が神を導く、か。なんだか変な気分だね」

深呼吸をして、再度月詠へ。

「全力でやらせてもらいますよ。神様」

「加減はしないそうだ。我も痛みを与えぬよう努力しよう……安く眠れ」

足を広げ、最後の一撃を出すために魔力、精神、感覚、その全てを最大限にまで引き上げる。

「そう、か……最後だ。月詠という神が溜めた魔力、盛大に披露してやろうぞ。人間よ」

今まで感じた事の無いような、威圧。ただ目を見開いただけでこれなのだ。さぞかし恐ろしい破壊の攻撃が飛んで来るに違いない。
達彦はそれと真っ向から勝負をするつもりなのだ。

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