〜龍と刀〜
過去]T 弦
逆巻く風に流される光の糸は、同じく舞う木の葉を塵に変えていた。下手に動けば体ごと切り刻まれるのがすぐに分かる。だが、立ち止まっている訳にもいかない。
幸いにも光の糸は風には逆らえないらしく、向かって来るような事は出来ないみたいだ。
「しかし、そんな使いづらい力を使うか?」
「やっぱりそう思うよね。……仕掛けよう」
「やむを得ん。様子見だ」
白銀を左手に持ち替え、月詠の下へと駆ける。背後、真横には風を起こし、攻撃を受けないように。
「その軽さが、命取り!」
難なく懐に入り込む事が出来た。しかし、見えたのだ。月詠の口元が不敵に歪むのを。
振るう腕に走った激痛。何かが、達彦の腕を切り裂いた。苦痛に顔をしかめながらも足取りはしっかりと。
「人間よ、弦の使い方は知っておるか?」
月詠が長い指で何かを−−光の糸を弾く。そう、弦だ。
「ほれ、人間も使うであろう?楽器を鳴らす時など、な。糸を張らせて、指で掻きならす。それがワタシの『弦月』の由来」
「生憎と、素養がある方じゃないんでね……楽器は苦手なんだ。聞くのは好きだけどね」
気が付けば周囲にはびっしりと光の糸が張り巡らされていた。言うなれば、蜘蛛の巣ように。
「最初から、これが狙いだったのか」
「場所は見れば分かるけど……こうも封じられると、骨が折れるよ」
膝を付いた姿のまま身動きが取れずにいる。どうにかして突破するには光の糸を断ち切る、それしか無いのだが、その後の月詠への対応が遅れてしまう可能性があるのだ。
「ピンチのようだな。達彦の奴……おいガキ」
「ガキじゃない」
「分かった分かった!とりあえず、脇差し貸しな。ガキ」
「だから、ガキじゃな−−」
遠く離れた結界の中、二人の戦いを横目で確認していた十六夜が陽に声を掛けた。
そしてそのまま陽から脇差しを問答無用で奪い取り、結界の外へ投げる。クルクルと回転する脇差しに向けて、魔術を発動。
「受け取れー!」
狙ったのは脇差しの付近。その空間を爆発させ、方向を変えたのだ。それを何度か繰り返し、ついに達彦の頭上へ。
「なっ、十六夜、それは危ないってば!明らかに僕の脳天に当たる位置に!」
「気合いで何とかしろ!」
「だから、あんまり無茶を言わないでって言ってるのにぃ!」
「片手でやってんだから細かい制御までは無理なんだよ!助けてやったんだから俺様に礼の一つや二つを寄越せ!」
言ってるそばから脇差しは重力に引かれて地面へ。もとい、達彦へ。
「ああもう!」
全神経を研ぎ澄まし、迫り来る脇差しを間一髪のところで避ける。避けたはずだった。
「達彦よ、斬れてるぞ……」
「……失敗した。でも、これで脱出する方法は出来たよ?」
額に負ったかすり傷を撫でてから、地に突き刺さった脇差しへと手を伸ばす。
「息の合う仲間が居るものだな」
「羨ましいかい?」
「さあ、な」
どこか悲しげに呟く月詠の言葉を聞いてか聞かずか、達彦は再び構えを取る。
「『剣凰流』剣技・弐式!重刃(カサネヤイバ)」
脇差しと白銀を交差させるように抜刀し、その後に両手を舞うように動かしていく。徐々に速度を増し、それに合わせて立ち上がる。
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