〜龍と刀〜
過去\ 秘策
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大きな気配を感じ、陽は自分が長く眠っていた事に気付く。起きたばかりの頭と体を必死に動かす。まだ腕は痛むが歩くのには何ら支障ないほどまでには回復をしている。
「とにかく、隠れなきゃ……」
少女を抱きかかえ近くの茂みへ。息を殺し、ゆっくりと、周りをうかがうために生い茂った草から目を利かせた。
ボロボロに裂けた服とも言えない布切れから投げ出された手足。その手のひら、そこには光り輝く球が握り込まれている。
「どこに隠した?いや、隠れたか。居るのは分かっている……死にたくなければ出てくるのだ」
月詠が優しく声を掛けた。だが、内容は凄まじい物。
武器を持っていない陽が前面に出て戦うべきではない。増してやあの二人と戦闘して無傷だというのがおかしいのだ。子供が少し習っただけの動きでどうにかなる相手ではない事は確か。
しかし、陽の性格からして後ろに下がるなどという事はしたくないはず。なら、前に進むしかないのだ。
「うん?この気配は……龍族か?何故このような場所に。しかも、人間と共に?」
駆け込もうと踏み出そうとした矢先、陽の正体がバレてしまった。しかもただの気配だけで。今まではそんな事は無かったというのに。
「物音……そこか!」
半回転、大きく広げられた両腕から光球が撃たれる。
迫る光球。
陽には少女を守る術は愚か、自身を守る術も持ち合わせてはいない。
ただ、今頼りになるのはポケットの中にある石ころだけ。
距離は縮む。もうあと数秒も必要とせずに陽と少女を吹き飛ばすであろう。受け身を取れる陽は良いが、少女はどうなるのか。それを思い浮かべると自然に手が動いていた。
「ふっ……他愛ない、な。ワタシの願いを邪魔する事は許されんのだ。たとえ龍族だとしてもな」
巻き上がる土煙。
まず先に浮かんでいたのは魔法陣。
そして人影。
「ふぅ……どうやら成功のようだね」
「貴様に礼なぞしないからな!あれくらい俺様でも余裕だ!」
「ハイハイ。ともかく陽もお疲れ様。十六夜は……月華ちゃんを起こすのが先決みたいだから戦えないね」
土煙を斬り裂き、登場したのは達彦と十六夜の二人だ。手には陽と同じ石ころが。
「これは式紙よりも低コストな道具さ。石ころに魔力を流しておけばいつでも使える優れもの」
達彦の説明を聞きながらも、月詠から距離を置こうとはしない。せめて退かない事、出来るのはそれだけだ。
更にその後ろでは十六夜が月華の手当てに入っている。結界を張り巡らし、準備は万端。
「陽は離れてて。これから僕の動きを見て、勉強してもらうからさ」
「何か、出来る事は……?」
「大丈夫だとは思うけど、流れ弾は全部撃ち落としてくれるかな?特に十六夜の作業はデリケートだ。失敗は許されないからね」
そう言って脇差しを陽に握らせる。達彦は白銀を下段で構え、改めて月詠に対峙。
「しつこいな人間。邪魔をする理由は無いだろう?」
「残念ながら、しつこいのが取り柄でね。その仲間を傷付けたなら、つきまとうのは……当然だ」
「ワタシを殺すのか」
「ああ。二刀じゃないから、手加減は出来ない」
仕事モードへと切り替えた達彦は、低い声でそう告げた。
第二回戦の始まりである。
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