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〜龍と刀〜
過去Z 意地
真っ赤に腫れた手を休める事なくぶつける陽だったが、遂に腕に限界が来た。

「いっ……!」

まるで電気が体を駆け巡ったかのような激痛が骨を伝い、膝を地面に付かせ、裂けた皮膚からは赤い液体。
普通の七歳の子供ならこんな状態になる前に諦めるか、その場で泣きじゃくるか、それくらいしか出来ないだろう。
だが、陽は違う。手が使えないなら、足を。足がダメになったら体を使えば良い。そこまで考えているのだ。

「助け、なきゃ……絶対にっ……」

何が陽を突き動かすのか。
それはただ一つ。父の教えと師の道を重ねた独自の目標。もしくは、約束、誓い。

「はあ、ふぅ……魔術をやってみよう。師匠には禁止されてるけど、けど、やるしかないんだ!」

存分に乱れた呼吸を整え、結界に向けて左手を差し出す。
両目を閉じ、拙い魔法陣を構築し始める。

「どんな物でも良い。これを……結界を壊すだけの、何かを」

まずは足元に円が描かれ、それに刻まれるようにして見慣れない記号やらが浮かぶ。広がる魔法陣は次第に結界全体を占めようとしていた。

「……これで、どうだぁ!!」

高ぶった感覚をそのまま、強固な結界へと放つ。爆発に次ぐ爆発、それに連鎖反応を起こして結界の周囲をぐるっと一周。
爆風に巻き込まれ、幼い陽の体は無残にも吹き飛ばされる。そして木に激突し、ずり落ちて少女の隣に座る形となった。

「げほっげほっ……せいこ、う?」

痛みに耐え、涙による視界の霞を払うように目元を拭う。
視線の向こう、先程まで陽の立っていた位置の結界。そこにはなんと亀裂が走っているではないか。

「良かった。ホントに良かった」

亀裂は上の方まで来ると、バランスを失って崩壊を始めた。キラキラと輝く魔力の欠片に見とれる陽だったが、それもすぐに切り上げる。
次の課題が待っているからだ。

「この体でどこまで行けるか分からないけど……やっぱり、少しだけ休憩」

立ち上がろうとして、止めた。こんなボロボロの状態では少女を背負うどころか、歩く事すらままならないだろう。それなら今の内に失った体力を補っておくのが得策だ。

「ほんのちょっと、寝るだけ……」

隣の少女の安らかな寝息を聞いているだけで、今までの疲れが一気に襲ってきた。その睡魔に意識を委ねるべきかと判断を迷ったが、考えるよりも早くまだ七歳の体は反応してしまう。
焦げた臭いも風に流され、今は心地良い爽やかな風が吹いている。本当に、家族で生活していた頃のような。

「ふわぁ……」

戦場に身を置いている事すら忘れてしまえそうなほど、のどかだ。
その数秒後、陽も少女と共に眠りの国へ旅立つのであった。


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