〜龍と刀〜 過去U 出発 引きずられる達彦を追い掛ける事、約数分。達彦が体を捻り、十六夜の手から脱出した。 「どうしたんだい十六夜?柄にも無く慌てているみたいだけど」 「うるせえ。今は貴様の挑発に乗ってる場合じゃねえんだ!さっさと白銀を持って来い!」 「……何かあったのかい」 急に達彦の声が冷静な物に変化。たまに見せる仕事モードだ。 「ああ。“神隠し”については聞いているな?」 「ここ数ヶ月、子供がさらわれる事件が多発。外傷は一切無く、全員が無事に帰ってきた。しかし全員が眠りについたまま目を覚まさなくなってしまった……まさか?陽は護身用に脇差し、あと白銀も」 指示を出された陽は無言で頷き、近くなって来た道場へと姿を消す。 それをじっと見ていた十六夜が怪訝そうに眉をひそめた。 「待て……あのガキも連れて行くのか?」 「そろそろ実戦を積ませる。若さと吸収力は比例関係にあるみたいだからね」 「いきなり大仕事を任せるのか。大した師だまったく……だが、俺様の邪魔はさせるなよ?いつ攻撃が当たるか分からん」 「そこら辺は僕がカバーするから問題ない。と言っても、前線に出す訳じゃないけどね」 そんな会話をしているとも知らず、陽は小さな体に大きな竹刀袋を二本抱えてやって来た。その内一本は柄に直接触れる事すら出来ない白銀。頭首の証。 「うん。準備完了っと……それで十六夜。場所は分かってるの?」 「県境にある山だ。一番強い魔力反応が出ている」 「確かに。歩くと時間掛かるね……跳ぶ?」 「その方が速いか。術式、展開」 住宅街、白昼堂々コンクリートの地面に魔法陣を描く。力が収束されていくのが幼い陽にも分かる。 「先に行く!急げよ!」 十六夜が魔法陣に足を踏み入れた途端、十六夜の姿が掻き消えた。 驚きを隠せない陽が硬直していると、背中をとんと押される。 「それは跳躍の術式だよ。場所と場所を繋ぐ通路みたいなものさ。なあに怖がる事は無い。十六夜はアレでも一流の魔術師だから」 「怖がってた訳じゃないよ」 その言葉を言い終える直前、意を決した陽が光の中に消えていった。それを見届け、達彦も中に入ろうと足を踏み出す。 「犯人は分かっているのか達彦」 くぐもった声、竹刀袋に巻かれた白銀だ。実は陽にはまだ白銀が喋れる事を教えていない。後々驚かせようという、ちょっとした悪戯心だ。 「誰が付けた名前か知らないけど“神隠し”っていうくらいだから神族なんじゃないかな?」 「何を流暢に話しておる。曲がりなりにも神族。油断は禁物だ」 白銀の忠告を軽く流し、自身も魔法陣へと突入した。 [*前へ][次へ#] |