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〜龍と刀〜
漆黒の翼U
鎧がこちらを振り返る。
微かな日の光だけがそれを照らす。

「私ですか」

「……あんた以外に誰が居るってんだよ」

痛む体を無視して、黒い鎧と向かい合う。頬を伝う血、混じる汗。

「私の名はアスラ。盟主の盾となり、剣となる者。それこそが、私の騎士道です」

胸の前で銀色の剣を掲げるアスラ。翼ある異色の騎士、アスラの第一印象だ。

「今のも騎士道か……?」

陽は地に伏している姉妹へと視線を巡らし、すぐに戻す。
例え勝てなさそうな相手だろうが何だろうが、許しておくべきではない。そう、教えを受けてきた。

「そうです。彼女らは約束を守らなかった。そして、彼女らがしようとした事は盟主への反逆」

抑揚の無い平坦で冷酷な声に、陽の怒りのボルテージは上がるだけだ。握った両拳を震わせながら、戦闘体勢に。

「行けるのか?」

「ああ。やらなきゃ、ダメだろうが……!」

足に力を込め、疾走。
迫る距離。無防備なアスラへと、絶対に当たる範囲で、下から斬り上げた。
そのはずだった。

「……遅いですね」

白銀は黒翼が舞う虚空を一閃し、陽の体はあらぬ方向へと吹き飛ばされる。
全身に広がる熱い痛み。口内に充満する鉄の味。

「感情を面に出して刃を振るうのは良くありません。ましてや貴殿は今、彼女の存在に配慮している動きではなかった」

立ち上っていた土煙を翼をはためかせる事で消し去る。
アスラの背後、眠ったままの月華。危うく攻撃に巻き込んでしまうところだったのだ。

「……シルフィードとウンディーネ、それと今の彼女。何が違うか、お分かりですか」

やはり冷淡な声で聞いてきた。閑散とした空間には充分過ぎる冷たさで。

「そんなの……ねえよ。守るべき者だ。俺に心を開いた瞬間からシルフもディーネも、月華も同じだ!」

ほぼ無理矢理に立ち上がり、白銀を下段で構える。血はだいぶ抜けているが、倒れるまででは無い。少し、焦点がブレて見えるだけだ。そこは感覚でカバー出来る。

「彼女らには、決定的な違いがあります。それは−−」

音も無く陽の眼前に出現したアスラ。漆黒の篭手が握り込まれ、

「−−生きているか、いないか。それだけです」

「……っ!?」

陽の胸に強烈な一撃を放った。
骨がボキボキと折れるのを感じる。肺が圧迫され呼吸が困難になり、吐くのは息では無く真っ赤な血液。吸うのは鉄の臭気。

「本来であれば、このまま連行すれば終わるのでしょうが……」

腰の鞘からサーベルを抜き、切っ先をうずくまっている陽に向ける。

「貴殿のような強い意志のある者には、少々深手を負わせるのが、確実かつ安全な方法と言わざるを得ない」

両翼を大きく広げ、その先端に魔力を集めているのが、薄くなっていく意識の中でも分かった。
白銀を手放している。
防御も間に合わない。
対抗出来る術は……?
龍化は……?
諦めるな、と姉妹に言ったばかりなのに!

「一度、眠るだけです。せめて安らかに、痛みを感じないように」

巨大な黒点が出来上がり、収束した塊が放たれた。

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