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〜龍と刀〜
漆黒の翼T
相手に戦う意志が無いなら、それを仲間にしても問題はないはずだ。
ましてや願いを叶えられる事が出来るのだから。

「今すぐにとは言わない。決心が出来たら、俺の手を取ってくれれば良い」

中腰になり、視線を合わせる。差し出した手はそのままに。

「……敵意は、感じられない……?」

「うん。むしろ、すごく好意的だよね」

初めて感じる『人間』の温かさに戸惑う。自分たちが操り、身体的に感じていたのとはまた違う温かさだ。

「聞いても、良いですか?」

シルフが幼い胸に両手をうずめながら口を開く。
陽は拒む素振りなどまったく見せずに受け入れた。

「もし、シルフとディーネがあなたに着いて行くとしたら……どういう生活を送れるのでしょう」

「君たちが望んだままだ。衣食住の全ては当たり前、なんなら家族だってな」

「陽、それはあまりに無謀過ぎるのではないか?……だがまあ悪くは無い」

白銀も肯定し、いよいよ交渉も最終段階だ。籠の中から助け出せるまで、もう少し。

「……家族。良い響き。今まで感じた事が無い……シルフ?」

「揺らいじゃ、ダメなのに……だけど、こんなにシルフたちの事を思ってくれてる……」

一滴。また一滴、と乾いた地面に吸い込まれていくのはシルフの涙。ポタポタと数回落ちた時にはもう、心は決まったみたいだ。

「良いんだよねディーネ?」

「……」

無言で頷くディーネ。二人と対峙してから、最初に見たディーネの表情。ぎこちないが、笑顔だった。やはり双子なのか、良く似ている。

「シルフは……私たちは、あなたと−−」

伸びた小さな二つの手は、陽の大きな手に乗せられる事は無かった。
その代わりに、一枚の黒く染まった羽根がフワリと舞い降りる。

「私は言ったはずです。盟主の邪魔となる者は誰であろうと排除する、と。この短時間に、忘れてしまいましたか……“風の盾”、“水の槍”?」

上空から掛けられたのは、中性的な声だ。その声に二人が驚愕しているのも分かる。そして、陽自身も今までとは格段と別の威圧感を身に受けているところだ。

「アスラ、様!?どうして……」

「……部下の行動を把握出来ない上官が居るとでも?そして、あなた方は約束を破った。この意味、分かりますか」

「っ……シルフ、危ない!」

飛び出したディーネが、何らかの力によって背中を切り刻まれた。露わになった白い肌が、赤黒く染まっていくのを見ているだけとなってしまう陽。

「この、野郎!」

とっさの判断で白銀を媒体に水気を溜め、上空へ向けて抜刀を−−

「黙っていてくれますか」

「なっ……」

−−放とうとした矢先、目の前に出現した漆黒の鎧によって殴り飛ばされてしまう。
兜も鎧甲も篭手も鞘も、背中から生えた対の翼も、身を包む全てが黒。封牙の黒は禍々しい色だが、この人物の黒はどこか宝石のような美しさすら感じられる。

「シルフィード、あなたは私の約束を忘れた訳ではありませんよね」

「覚えています!でも−−」

「そうですか。残念です」

閃きは一瞬。遅れて、声も上げずに鮮血を噴き倒れるシルフ。

「くっ……何だよ、テメエは……?」

直感した。
力の差に大きな開きがあると。

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あきゅろす。
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