〜龍と刀〜
文化祭二日目!V
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慣れない機械−−携帯電話−−を何とか使い、少年をおびき寄せるのは成功した。
だが多分、怒らせてしまっただろう。妹の周りからの吸収力には目を見張る物がある。これなら人間社会を生きていく分には苦労しなくて済みそうだ。
「これで、大丈夫だよね」
「……うん」
大量の資材が積まれた広場。まるで、まさにこれから開設工事が始まったかのように見える。
その一角。昼間だというのにも関わらず、日が当たらない場所に彼女たちは居た。
「悪い気はするけど……これも平和的な解決のためだもん」
「……まだ、罪悪感が尾を引いてるの?シルフらしい……」
「だ、だって、何もしてない人を捕まえて、それにお金まで出してもらって……こんな良いお姉さん、なかなか居ないと思うから」
二人の背後、何らかの力によって縛られている少女。しかし、外傷は見られないし、眠っている顔も至って満足そうだ。すやすやと寝息を立てている。
「……目的遂行のために、犠牲を払うのは必然で、傷付くのも必然。そう、アスラが言ってた……」
「シルフも聞いたよ?だけどシルフはそれは違うと思うの」
“自らが作った”風は、シルフとディーネを優しく包み込む。
「自分が傷付く事で、他の誰かが幸せになれるならシルフはそれで良い」
「……変わらない。シルフはずっと……」
その風はシルフ自身。天性の優しさと温かさで加護する者。
「今までだってそうして来たのにね。急に変えたりなんて出来ないよ」
「だったら……わたしはそれに従うだけ。今までと同じように、シルフを助ける」
ディーネの青色の瞳に映るのは、シルフと同じ道を歩く自分。それを貫くために、ディーネは彼女の槍となる。
「……来た」
なるべく身構えないように、近付く足音で距離を測る。あくまでも平和的解決がシルフの信念。
「さあ、月華を返してもらおうか?」
手には何も持っていない。即戦闘という意志は少なからず無いようだ。なら、話し合いの余地はある。
「シルフたちの……あ、シルフィードって言います!こっちは妹のウンディーネです」
「……名前くらい自分で言える」
目の前の少年は、呆然とシルフとディーネの名乗りを聞いていた。今ので戦意がバラバラに欠けてしまったらしく、頭を抱えている。
「いや、それは良い。うん。月華は無事、なのか?」
気のせいか、報告されていた人物像とは印象が違う。物腰が柔らかいというか、優しいというか。
「当然です!シルフは無意味に人を傷付けたりしないのです!」
「分かった分かった。それで……さっきは何を言いかけたんだ」
「……ねえ、本当に標的なの……?人違いじゃ……」
「えぇ!?違うのかな?でも見た限りこの人だよ……?」
二人でひそひそ話。時折耳に入る単語だけでは理解出来そうに無い。
「……単刀直入に言う。わたしたちに同行して。悪いようには、しない、はず……」
「やっぱり『永遠の闇』の一員か。俺を龍族で呼ぶやつは大抵そうだからな」
ズボンのポケットに手を突っ込むのが見えた。それを慌ててシルフが制する。
「ま、待ってください!シルフたちは戦いたい訳じゃないんですっ」
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