〜龍と刀〜
文化祭二日目!T
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結局昨日は、月華も紗姫も帰って来なかった。一人寂しく出前のそばを啜る事に。
そして今日。文化祭も終わるその日、いつになっても月華が登校して来る気配が無い。
「さすがにおかしいか……」
黒スーツに袖を通しながら呟く。今日も午前中は接客をしなければならないのだ。そう思うだけで溜め息が出る。
「龍神くん、ご指名よー」
「……ここはそういう所じゃないだろ」
「堅いこと言わないで?昨日だって三回ぐらい来たのよ、あの二人」
パーテーション越しに覗いてみた。そこに居たのは昨日の女子二人組だ。あの、注文のとても速かった二人組。黙ってれば可愛いと思うのに、と愚痴を零す。
「龍神くんは人の趣味を否定するんだ……意外と酷いね」
「あ?別にそういうつもりじゃ」
ただ理解し難いだけと言いたいが、言い出せる雰囲気ではなかった。仕方ないので大人しく従う。
「分かったから、包丁とかはやめてくれ。大事件だ」
いつの間にか取り出していた包丁。それを握り込んでいる女子生徒をなだめ、自身は突入の準備を。そしてやはり、溜め息を一つ。
「コホン……行って参りますよ」
「うん。素直でよろしい」
わざとらしく咳払いして、自分の仕事を全うするために仕事場、もとい戦場へと足を踏み出した。
「お呼びでしょうか?」
自分でも気持ち悪いくらいの甘ったるい声と、笑顔だ。お陰で仕事には苦労していないのだが、やはり居心地は良くない。
「あの、少しお話を……!」
「私は写真お願いしたいん、です、けど」
まさかこうなるとは予想していなかった。何と答えようかとパーテーションの裏側へと視線を投げていると、
「ああー待って!それなら俺が、俺が変わるよ!な、良いだろ龍神?」
井上がやかましく割って入って来た。
「だってお前、スタコンの最終審査あるだろ?」
「知らねえ……聞いてねえぞそんな事」
「玄関の紙見て無いのかよ?龍神を入れて……何人だったかな。まあ、とにかくあるんだよ!だから、ね?俺で良ければ」
職務を放棄して井上のバカ話に付き合っていると、後ろから刺すような殺気。男子からだろうか。
妬ましいとか、何でいつも龍神がとか、それに順する恨み言がボソボソと耳に入って来た。
「何で文化祭だってのに睨まれてんだよ……」
ここ数十分で何回溜め息を吐いただろうか。数えたくもないが、相当の回数だと容易に想像がつく。
「だーかーら!俺に任せてって言ってんの!」
「あのぅ……ダメ、ですか?」
申し訳なさそうに見詰めて来る二人をないがしろにするのも、なかなか気が進まない。そして何より、井上に任せるのは気に入らない。
「井上は下がって良いぞ?……あまり時間が無いようなので、写真だけでお許しください」
「良いんですか!?あ、ありがとうございますぅ!」
「おおい!俺の話は無視かぁ!」
ぱあっと顔を輝かせる二人。余程嬉しい事なのだろうが、陽としてはあまり写真が好きじゃないので、完全に乗り気という訳ではない。
「部屋に飾らせてもらいますね!」
「私も!」
やはりやるべきでは無かった、貼り付けた笑顔の下、本心はそう言っている。喜ぶ二人を丁重に見送ってやると、胸ポケットに入れていた携帯電話が振動した。
「……」
急いで裏方に戻り、相手を確かめる。
着信先は月華だった。
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