〜龍と刀〜
文化祭一日目!]
陽にとっては波乱の一日目が終了。正確には後片付けと、翌日の準備等が残っているのだが、ライブの辺りから陽の文化祭は終了したも同然。
分からない事だらけで溜め息しか出ない。
「憎いやつ発見!」
そんな空気を打ち破ったのは井上。額には何かが当たった痕跡が生々しく残っている。幸輔から一方的な攻撃をされた結末だ。
「何だよ憎いやつって……」
「しらを切るつもりか!?知ってんだぞ!お前が、ライブで告−−」
自然と手が反応。真っ赤な額へと鋭い一撃を。ただのでこぴんだが……。
「いったぁああ!何すんのお前!ちょっとは痛み引いてたのに……!」
「デリカシーやら常識やらが無くて、頭が悪いやつにはこうするんだよ」
呻きながら倒れた井上を掃除用具で隅に追いやった。ゴミ扱いである。
そんな中、陽はふと気付く。
「……月華が居ないな」
「くっ……この状況で月華ちゃんを呼ぶだと!?いくら龍神でもハーレムは許さな−−」
とりあえず、黙らせるために箒を振り下ろしておいた。苦悶の表情で沈んでいく井上は無視して、近くに居た春空を呼び止める。
「何でしょう龍神さん?」
「ああ、大した事じゃないんだが……月華見なかったか?ここには居ないみたいだけど」
少し考える素振りを見せたが、すぐに答えが帰って来る。
「……いいえ、私は」
「そうか」
「何かありましたか……?」
心配そうに覗き込んで来る春空。
確かにあったが、出来れば公表したくない事実である。
「特別、用があるって訳でも無い……ただ気になっただけさ」
少しだけでも、別の事を考えていないとやっていられなかった。
これから紗姫とどんな顔をして会えば良いのか。まともに話せる自信も無い。考えれば考える程に深みに嵌っていく。
「ふっ。なら月華ちゃんの事は俺に任せ−−っと危なっ!」
箒を振り切ったつもりだったが、距離が足りなかったみたいだ。鼻先を掠めただけ。
「チッ……」
「ねえ、俺何か悪い事した!?」
「ああ。存在がな」
「俺自体を全否定か!」
ギャーギャーと騒ぎ出す井上をどうやって黙らせるか、と箒を強く握り込む。
「だって井上ってそういうキャラでしょう?違ったっけ?」
「さあ、そろそろ終わるよ?準備しなよー」
ぼーっとしている間に掃除は終わっていたみたいだ。結局何もしていない気もするが、気のせいだろうという事にしておく。
「今日の反省がある人は挙手でお願いね」
中島が最後まで仕切っているのに、本来係である井上は動こうともしない。
「特に無いよね?」
「そうだね。なかなか楽しかったし」
「強いて言うなら、井上が仕事してなかったな」
沸き立つのは井上に対する事ばかり。
仕方ない事なのだろうが、ほぼ全員から邪険に扱われるのを見ると、ほんの少し、原子レベルの微細な物ぐらいには同情してやる。
「まあ、そんな訳だから井上は何もしなくて良いよ」
「あ、マジで?じゃなくて!俺にも仕事させろぉ!」
「じゃあ、後一日、頑張ろうー!」
この掛け声が、本当の一日目終了の合図になった。
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