〜龍と刀〜
文化祭一日目!\
たかだか四分というのはとても短い。曲も終盤に差し掛かり、少し名残惜しそうにマイクを握る。だが、すっきりした表情だ。とても清々しさを感じられる。
そしてついに、曲が終わりを迎えてしまった。陽は誰よりも速く拍手をする。そうしてやるのが、一番良いと思ったからだ。
「皆さん、ありがとうございました!」
肩で息をしながら、メンバー全員が礼をする。しかし、なかなか片付けが始まらない。何かと思えば紗姫が再びマイクの電源を入れている。
「ぁ、えっと……その……」
しどろもどろな紗姫を、メンバーが背中を叩いて応援。これから何が起ころうというのか。
「うん。分かってるわ……やらなきゃ、きっと後悔するから!実は、言いたい事があります!」
決心したのか、声を張り上げて叫ぶ。
気のせいか、視線は陽に向けられているように見て取れる。
会場内はどよめき半分、応援半分といったところ。自分は何をすれば良いのか分からない陽は、とりあえず黙って聞く事に徹するしかない。
「ふぅ……ある人に、言います。あの時から、あなたの事が好きでした!」
顔を真っ赤にしてうつむく紗姫。
言われている当人はまったく気付いていないみたいだが。紗姫はそれに追い討ちを掛けるように続けた。
「たった一回手当てしてもらっただけなのにね……それでも、気持ちわ変わりません」
この一言で、ようやく理解したみたいだ。鈍感過ぎるにも程がある。
恥ずかしい事を大観衆の面前で言われ、さすがの陽でも縮こまっていた。
『いやーこれが若さってやつですかねー?見ているこっちまで恥ずかしくなります』
『ホントホント。こんな告白のされ方なんて最高じゃない』
『ねー。私だってされたいよ』
司会者が愚痴を零し始める。それを聞いた紗姫が慌てて、
「あ、答えはいつでも大丈夫、だからね!それじゃ!」
まさしく尻尾を巻いて逃げ出した。残されたのは呆然としている陽だけだ。
色々な歓声によって沸き立つ会場の中、陽だけは頭が真っ白。
『何か物凄いテンションですね。冷めてるの私らだけ?』
『そうみたい。ぁー次のグループ、ちゃっちゃとやっちゃって良いですよ?やる気無くしましたんで、終わったら勝手に解散してください』
『はぁ……行こっか』
仕事を放棄する司会者たちなどお構い無しなのは客席側。投げ出されて動揺中なのは、これからライブをしようと張り切っていた三年生。
『司会は裏生徒会(非公式)がジャックさせてもらった!ついでにここで宣伝だ!役員たちよ!』
『分かってます会長ぉ!』
混沌とした雰囲気。
そんな状況ですら陽の思考回路は周りには働かず、先程の言葉ばかりが再生される。
整理。
紗姫は自分の事を好きだと言った。
なら、自分は今何をすべきか。
分からない。分からないから悩む。
答えを与えに行こうと思うが、自分の気持ちがどうなのかも分からないのだ。
糸は絡まるばかりで、解ける気配など一切感じられない。
「どうすりゃ良いんだよ……?」
その微かな呟きは、騒音によって掻き消されてしまった。
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