〜龍と刀〜
文化祭一日目![
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所詮は学生のライブ。大した事は無いだろうと踏んでいた陽だったが、歌声や楽器の演奏、パフォーマンスも圧巻だ。これだけ良い物を見れるなら、来ても損は無い。
心なしか、周りに釣られて手拍子まで始める始末。せっかくの文化祭だ。楽しんでいきたい。
ボーカルの声が空気を揺らし、ギターやドラムの音色がそれの波長と合う事で体を揺さぶる。なかなか心地良い物だ。
『会場のボルテージも最高潮になって来ました!さぁ、次のバンドはー!』
『えー次のバンドは何と、一年生の女子四人組ですよ!数々の応募者から選ばれた期待の新星です!』
司会者はいつの間にか二人になっている。別にそんな事を気にする必要は無いのだが、それにしても進行が上手い。二人の息もぴったりで、人のテンションを上手く高める方法でも知っているのではないか、とも思う。
「ん、そろそろ紗姫の出番か」
ここまでレベルの高い演奏が続いたせいもあるのか、期待度が大きい。自分の知り合いが出るというのも関係しているのだろう。
ステージに当てられたライトが消え、真っ暗になる。出演者の準備のためだ。陽はこの後に来る、調整のためにかき鳴らす音色が好きだったりする。
『準備が出来たみたいですね。それでは照明さん、どうぞ!』
強烈な光とともにステージが輝きを放つ。目眩ましかと思える一瞬が過ぎ、真上に居る人物へと視線を投げ、驚く。
紗姫が居て、制服を着ていて、目の前のマイクを握り締めている。そこまでは大した事じゃないのだが、
「……マズくないか?」
光を受けて反射する日本人離れした金髪、その頭。狐の耳がそのまま乗せられているではないか。嫌な予感がして腰部分にも目をやると、案の定金色の毛束が揺れていた。
「かわいーよー!」
「尻尾とかすごい再現力だね」
「文化祭で助かったみたいだな……」
ひとまず安心。コスプレだと思われているみたいだ。今の時代の風潮プラス文化祭というのがあったからこそ、普通にしていられる。陽の龍化は、これまた誤解が生まれてしまいそうだが。
ガヤガヤと騒ぎ立てる群衆の中、紗姫が声を上げる。
「まずはメンバー紹介!ギター、トモちゃん!」
ギターを筆頭にベース、ドラムと順々に紹介され、最後は紗姫。
「ボーカルをやらせていただくのは、私。紗姫です!……みんな、行くよ!」
ほんの一瞬こちらを見たのか、少し安堵した表情に。だが、それもまた一瞬のみ。
ベースの低く重たい音が響くと、会場は更にヒートアップ。ドラムがそれに続き、ギターがメロディを奏でる。曲調はロック。少し長めのイントロの後、ついに紗姫の口が動いた。
「これは……」
純粋に上手い。音程がどうとか、かつぜつが良いとかそんなのは目じゃなく、ただ本当に上手いのだ。
紗姫のソプラノと奏でられた音色がマッチして、会場に響き渡る。
正直、こんなに歌が上手いとは思ってもいなかった。今日は豪華に寿司でも頼もうかと考えてみる。鍛錬も一日だけは無しにしてやっても良いのではないかと。
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