〜龍と刀〜
文化祭一日目!Z
「はぁっ、はぁ……」
やはり剣術と忍術では動きが違う。予測とは裏腹な攻撃が繰り出される。
「龍神……そろそろ時間なんだけど良いのかな〜?」
「……何がです」
乱れた呼吸を整えるように背筋を伸ばす。冷やされた空気が肺に送り込まれ、冷静さが取り戻された。
「あ……ライブ!」
「そういう事〜。楽しんで来なよ〜」
据え付けられた時計を見て焦る。早めに行かなければ、注目を浴びながら入る事になってしまう。それだけは避けたい。
「井上、上着!」
「へ?あ、ああ。はいよー」
投げられた上着をざっと掴み、竹刀をその場に投げ出す。武器を投げるなど、剣士あるまじき行為だが、白銀を投げて使う事もある陽は気にしていない。
「あとは任せたぞ井上。俺はライブに行ってくる!」
全力で床を蹴り、出口へ向かう。当初の目的は忘れてしまったみたいだ。
残された幸輔を除く全員が、呆然と見詰める中、陽の背中はどんどんと小さくなっていく。
「あ、龍神ぃ!チケットは!?」
「さあ〜龍神のお友達。どうする〜?退くかやられるか。はは〜二者択一」
脇差しをクルクルとバトンのように回しながら井上に問う。
「うわぁ!無理だよぉお!」
「ドンマイだね井上……」
陽の姿が完全に消えた時、道場内に井上の絶叫が木霊したらしい。
*****
体育館は人でごった返していた。生徒が大半で、一般客もちらほらと。
上着のポケットから、二つ折りにされたチケットを取り出し係とおぼしき生徒に見せる。
自分で場所を探すのが面倒だというのもあったが、探している間に時間が過ぎてしまいそうだと思ったからだ。
「あ、これなら……案内しますよ」
「お願い」
係の生徒に先導され、通してもらう。
すぐにその場所に着き、席を示される。
「マジか……」
井上たちが欲しがる理由が分かったような気がした。何故なら、陽の席というのは、
「一番前だからか。そりゃあレア物だな……」
ほとんど生徒の居ない前席に座り、体育館の壁にある時計に目を向けた。だが、暗くて良く見えない。さすがに携帯電話で時間を確認する訳にもいかず、大人しく開始時刻を待つ事に。
『みなさぁーん!文化祭、楽しんでますかー!』
降りた幕の内側から可愛らしい声が響く。どうやら開始時刻ギリギリだったみたいだ。
イェーイ!とノリの良い群衆が声を張り上げて応答している。
『司会、進行を勤めさせて頂くのは放送部です!どうぞよろしくー!』
再びの応答。度々聞こえるのは司会者の名前だろうか。本人も人気が高いらしい。
『それではー、……これより一組目の演奏です。三年生の男子グループですどうぞ!』
一瞬の静寂、それを破ったのは低いギター音と、高い歓声だ。幕が上げられ、明かりが体育館中に漏れ出す。一番前だと、ちょっと眩しいくらいだ。
「心を込めて歌います……!」
その一言がライブの始まりを告げる、第一声となり、体育館はライブ会場へと変貌を遂げた。
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