〜龍と刀〜
文化祭一日目!X
*****
剣道場に着いた一行。
「なぁ龍神?剣道部って何してんの?」
まだ事情までは説明していなかったが、一々喋るのも億劫になった陽は貼り紙を指差した。
「なになに……『対決!剣道部に勝って豪華賞品をゲットしよう!』分かりやすくて助かるな」
「なるほど。文化祭に関係する無料券とかに加えて、お金も配るんだね。と言っても食券だけどね」
「勝てたら、だがな」
そこが問題なのだ。途中に幸輔を参入させる事で、賭け金を巻き上げる作戦らしい。身軽さで言えば陽よりも格段と上で、正直勝てる自信が無い。
「とりあえず井上は様子見して来い。敵情視察ってやつだ」
「おう!任せとけ!……たーのーもー!」
力一杯に戸を開け放つ。
「敵情視察って死亡フラグ率高いよね」
「気付いてないから大丈夫だろ。おだてりゃ更に安心だ」
ズンズンと進んでいく井上の背後、陽と中島が不吉な事を話しているのにも気が付かない。
「いらっしゃいませぃ!お、龍神の友達か?」
防具で全身を覆った男子が数人、歩み寄って来た。これはこれで迫力があり、度を過ぎて恐怖すら感じる。
剣道部の正装なのは理解出来るのだが、せめて胴着だけなどの配慮をするべきだと思う。
「さあさあ、これが我が部の賞品リストだよ!今ならなんと、三回勝つと払った金額が戻って来る特典付き」
「やるかやらないかはキミが決めるのさ」
防具で顔が見えないので、誰が誰なのか分からない。とは口では言う陽だが、実のところ顔と名前は合致しないと思う。
それくらい浅い付き合いだ。
「ワンプレイ五百円。どうする!」
「当然、やるに決まってるぜ。狙いは……」
自身の財布から百円玉を探しつつ、賞品リストへと目をやる。
考えたのはほんの一瞬。井上の本能がそれを求めていたのだ。だからそれを選ぶ。
「この、ライブチケット・裏生徒会役員専用特等席だぁー!」
ビシッ!と思い切り賞品リストの一部を指差す。
「どうせ限定品とかが目に入っただけだよね。井上だし」
「だろうな……何はともあれ、やれるところまでは井上に任せるしかない」
陽にはちゃんと考えがあった。
何故井上を先行させたのか、何故陽が自分で勝ちにいかないのか。
「ルールは簡単。部員から一本でも取ったら勝ち。総当たり戦で、その内二回勝てば賞品ゲット」
「ハンデとして部員は十秒間、攻撃が出来ないからね。その間に勝たないと辛いかも」
淡々とルールが説明されていく。井上が理解しているかどうかは別として。
「質問ー。防具、だっけ?それって着けなきゃマズい?」
「大丈夫。寸止めくらい出来るから」
その言葉に乾いた笑いが響く。どうやら寸止めは出来ないらしい。直撃コースだ。
「やっぱり死亡フラグだね」
「だな。仕方ない……井上、俺が言った通りの場所を狙えよ」
「これが竹刀か。意外と重た、ん?何か言った?」
「勝ちたいなら言うことを聞け」
貸してもらった竹刀をブンブンと振り回しながら、それっぽい格好で構える井上。
「分かった。ふっふっふ〜。龍神が居れば余裕だな!」
「準備は良い?それじゃ……試合、始め!」
形式だけはしっかりと。
井上の初めての剣道が開始された。
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