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〜龍と刀〜
忍び寄る小さな影
*****


こんなに沢山の人間が同じ箇所に集まっているのを見るのは、何百年振りだろうか。
ちょっと目を離した隙に服装までが変わっている。それだけじゃない。昔に比べて、皆が笑っているではないか。楽しそうに、とても楽しそうに。

「……シルフ、どうかした……?」

蒼く鮮やかな、レインコートのような服装をしている小柄な少女が、同じく碧色のレインコートを羽織った少女の顔を覗き込む。まるで鏡で写しているかのように瓜二つの顔。違うのは、髪と瞳ぐらいだ。

「ううん。ちょっと人が多い事にビックリしただけだよ」

わざわざ来校者用のスリッパに履き替えたが、見た目小学生の二人にとっては大きすぎて、歩く度に音を鳴らす。

「小学生かな?これ、どうぞ〜」

ある目的のために歩みを進めていると、不意に横から声を掛けられた。
昔見た、人間が給仕をする時の服装をした少女−−メイド服という言葉を二人は知らない−−が風船を持って笑顔を振りまいている。

「……くれるの?」

「そうだよ〜。私は他の人にも上げなきゃいけないから、バイバーイ」

特に断る理由も無いので差し出された風船を手に取った。走り去る少女の後ろ姿を呆然と見送り、

「優しい人だったね。ディーネ」

コクコクと頷くディーネ。つい和んでしまったが、少しくらい人間の社会を勉強しておくのも構わないだろう。

「……ちょっとだけ。ちょっとだけで良いから、遊びたい……」

「そう、だね。少しくらいなら構わないよね?」

きっと上手くいくはずなのだ。
その前祝いという物。

「日本語、読めないね」

「うん……でも、わたしは楽しいと思うから……」

「はうっ……ここお金掛かるみたいだよぉ」

まさかこんな事になるとは思ってもいなかったので、お金という物は持っていない。

「じゃあ……目的、探して、お金出してもらうのは……ダメ?」

「そんな上手く行くかな?」

「わたしに、任せて」

シルフの手を引いて歩き出す。
こんなに生き生きとした妹を見るのは本当に久し振りで、自然と笑みがこぼれてくる。

「日本人の顔って見分けにくいね……これじゃ物凄く大変だよぅ」

「シルフ、一つだけ変な魔力……東側特有の魔法。多分、簡易結界。それを追う」

スタスタと人混みを掻き分けながら進むディーネ、おぼつかない足取りでそれを追い掛けるシルフ。
彼女たちの目的は件の少年に接触する事ではなく、交渉のタネを掴む事だ。平和的な解決方法を模索した結果である。

「こっち。急いで」

「速いよディーネ〜」

喧騒の中、息を切らして走っていても不審には思われない。容姿のせいもあるのだろうが、好都合である。

「……居た」

「ほぇ?あ、あの人?」

ディーネに引っ張られての移動だったため、普通に走るよりも疲れてしまった。
その視線の先に居たのは、“金色の腕輪を身に着けた少女”。少年と最も近しい存在だと聞いている。
どうしようかとシルフは悩んでいたのだが、

「うん?どうかしたのかな?」

少女のスカートの裾を引くディーネの姿が目に入った。足早にその隣へ。

「……付いて来て」

「お願いしますぅ」

友達と会話をしていた少女は、優しい笑顔でこう言った。

「分かった!迷子かな?親御さんを一緒に探して欲しいんだねっ」

そんなつもりはなかったが、どうやら成功したみたいだ。

「あ、待って!ごめんね、みんな!また後で」

騙してしまった事にほんの少し罪悪感を感じた。
だが、これも自由のためなのだ。

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