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〜龍と刀〜
文化祭一日目!U
客足は上々のようだ。
興味本位で来る者、ちょっと見る目が危ない者、休憩しに来る者と様々。

「どうぞこちらへ……」

陽も仕込まれた通りに客を中へ通す。女子の二人組で、陽の姿を見てキャーキャー言っている。そっち系の人なのだろうと勝手に解釈し、空席へと案内、手作りのメニュー表を手渡した。

「メニューがお決まり次第、また申し付けください。それでは−−」

「あの、私、紅茶とサンドイッチを!」

「(速っ!?)」

「同じので!」

異様な速度で注文されたが、慌てずゆっくりと対応する。井上との勝負もあるが、客の機嫌を損ねるのは良い事ではないからだ。

「少々お待ちを」

言って、ニコッ……とクラスの女子に死に物狂いで叩き込まされた、営業スマイル。
裏方部隊、遠巻きにそれを見てガッツポーズ。破壊力は高い、と。
注文を裏方に届けるために、パーテーションを潜る。そこで、深く深く溜め息。

「コレ、注文だ。……自分でも気持ち悪いくらいに笑顔だったろうな」

「お疲れ〜!あたしたちも良い物見せてもらってるよ!龍神くんみたいな人にお嬢様〜なんて!込み上げて来る物が−−」

「そうかいそうかい……喜んでもらえて何よりですよ。疲れたぁ」

喜悦の表情で悶える女子を適当にあしらい、注文の品が出来るまで休憩も兼ねてイスに体を預ける。

「あと……二時間か?何かもう勝負とかどうでも良くなってきたな……」

やる気が起きない、と言うよりほんの数時間で一日分のやる気を使い切ったような気がする。働くって大変だなぁとぼやいてみるが、誰からも反応は無い。真剣に打ち込んでいるのだろう。

「龍神なら負ける訳ないだろうね。井上はあんなだし」

表から顔を出したのは、髪をオールバックにまとめた、なかなか顔立ちの整った少年だ。だが、陽の記憶と合致する人間が出て来ない。誰だろう、と首を傾げてみる。

「どちら様?」

「本当に、僕はメガネで認識されてるんだね……」

「おお、もしかして中島か?メガネ無いから誰だか分かんなかったぞ」

「夏休みから何回かメガネ外す度にこれだよ?いい加減覚えてよ……」

どうやらメガネを外した中島だったみたいだ。

「まぁ、そんな細かい事はどうでも良いか。それであのバカがどうしたって?」

「僕にとっては細かい事じゃないよ……とにかく井上なら、見れば分かるかな」

そう言ってパーテーション越しに表舞台を覗いてみる。繁盛している中でも、井上はすぐに見付ける事が出来た。

「……確かに俺の勝ちは揺るがない、か」

陽が勝利を確信した原因は、これだ。

「ねぇ、君たち可愛いね。良かったらこれから一緒に−−」

率直に言うと、ナンパしていた。仕事の役割を知っているのだろうか。発案者が存分に遊びまくっている。

「バカだもんな」

「バカだしね」

相変わらずその一言で片付く井上の所行。所詮はその程度、という事で納得している。

「紅茶とサンドイッチのセット、出来ました〜」

「よし。とりあえず、大差で勝ってやるか」

「頑張ってね」

仕事モードに切り替え、注文の品を運びに行く事にした。
この時点で、陽の接客数は十五人弱、売り上げは約二千八百円ぐらいだろう。
勝利の女神は陽に微笑む、いや、もう爆笑しているのかもしれない。

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