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〜龍と刀〜
誘いの手
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そこから見る、切り取られた世界は綺麗とまでは言えないなりにも、そこそこ美しくはあった。だから、それを望んだ。

「ねえシルフ……わたし、外で暮らしたい……」

「うん。シルフもそう思うよ。でも、シルフたちには、アスラ様にお礼しなきゃいけないから……ディーネも分かるよね?」

幼い女の子の声。
漆黒の帳から入り込む僅かな光で照らされた少女たちの顔は瓜二つ。つまり、双子だ。

「……その願い、叶えるチャンスを上げましょうか」

ふと振り向くと、そこには全身を黒で包んだ青年が立っていた。着込んだ鎧、長髪、剣を仕舞う鞘。どれを見ても、黒と黒と黒。ただ一点、輝くのは鋭い眼光だ。全てを射殺すかのように、二人の少女を見つめていた。

「アスラ様……!」

「久しいですね、シルフィードもウンディーネも。変わりは無いですか」

鋭い眼光は変わらずに、とても甘い声色でシルフィードとウンディーネと呼ばれたそよ風のような少女と清らかな川のような少女は、驚きを隠せずにあたふたしている。

「シルフたちは、大丈夫です!アスラ様は?」

「……顔色、悪い……?」

「いえ。気にする事はありません。ただ、また一つ、炎が消えただけです」

言葉の意味が理解出来なかった姉妹は、顔を見合わせてクエスチョンマークを浮かべさせた。
そんな微笑ましい光景でも、アスラは眉の一本動かさない。それが彼だと知っているシルフだったが、少し寂しくもあった。

「話が逸れましたか……本題に入りましょう」

「本題ですか?」

「お仕事……」

「察しが早くて助かります。あなたたちに直々にお願いしたいのです」

カチャリと鞘に手を掛け、ゆっくりと内容を話し始めたアスラ。

「私たちのやろうとしている事は知っていますね?」

「は、はい!ええっと−−」

「日本の、龍族の少年……捕まえる」

シルフが言おうとしていた事を口数の少ないディーネに取られてしまい、ぷっくりと頬を膨らませる。そんな所まで、見た目通りの姉妹だ。
アスラはそんな事はお構い無しに口を動かす。

「そう。そうです。それが出来たら……あなたたちを自由の身にして差し上げましょう」

優しく差し伸べられた誘いの手に、二人は戸惑いを隠せない。当然、躊躇う。

「でもでも、そんな事をしたら……アスラ様へのお礼が出来なくなってしまいます……」

「……契約、不履行になる……」

俯きがちにそう言う姉妹は、迷っている。自分たちの願いが叶うのはとても嬉しい事だが、約束だって同じくらいに大事、いや、それ以上かもしれないのに。
それでもアスラは首を振る。

「私は充分あなたたちからお礼を貰いましたよ。有り余るくらいに……だから次は、私がお返しする番です」

「……わたしは、シルフに従う……」

「そ、そんな重大な事を振らないでよぅ……」

「では、こうしましょうか」

腕を組み、何かを考えていたアスラが提案したのは、これだ。

「仕事が出来次第、報告をくれれば良いです。……期限は問いません」

確かに聞こえは優しいが、彼の心の中では真っ黒な望みが渦巻いている。それを知ってか、シルフは答えを出した。

「やらせて、ください。アスラ様。良いよね、ディーネ?」

無言でコクリと頷くディーネ。肯定の意だ。

「ありがとうございます。本当に期限は問いませんし、残っている兵も思う存分使ってやってください」

期限を問わない。口ではいくらでも言えるが、実際は違う。無期限にする事で相手を急かしているのだ。

「それではご武運を」

それだけ言うと、アスラはマントを翻して闇の奥深くへと消えていく。

「なるべく平和に解決したいね」

「……向かって来たら、やむを得ないから戦う」

「あぅ……でもドラゴンだよ?無茶だよきっと」

「シルフは……心配性。わたしに任せて?」

上から覗く偽物の星は、やはり美しかった。だからやり遂げたい、そう願う。

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