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〜龍と刀〜
夕暮れの決闘[
*****


「……くそっ」

初めて味わう敗北。だが心は確実に浮かれていて、ボロ負けしたはずなのに清々しさすらある。自分がおかしくなったのかとも思った。

「龍神 陽、か……ふふ」

負けたのに笑っている理由が分かった気がした。それは多分、次こそは、という原動力だ。
彼と戦いたい、彼に勝ちたい、彼よりも強くなりたい。そんな気持ちが父親に届いたのか、新しいオカルトの実験に呼ばれた。
内容は、悪魔召喚。魂と引き換えに願いを叶えるという、実の息子にするような事ではなかった。だが、今の壊にはそれを信じてみるのも悪くないとも思い、協力したのだ。

「おぉ……!!成功だ……」

部屋中に書き殴られた魔法陣。その中心に立ち、“それ”を見つめる。ボロボロの黒衣と、異様な輝きを放つ鎌。顔や手などという概念は無い。ただ、何かをそこに感じるというだけ。

『イケニエヲ、ダセ。願イ、カナエヨウゾ』

低く、唸るような声。不思議と恐怖という感情は生まれなかった。
そして自分が強くなるためなら、と無意識に指を指したのは−−興奮して息を荒げながら何かを書き込んでいる父親。

「これで聞いてくれるな?俺の願い……それは−−」

こうして壊は、体に悪魔を宿す事で力を得たのだ。いつか、彼と決着をつけるその日を待ち焦がれながら。


*****


「あぁ……これが死ぬ、という感覚か。ただただ、自分の何かが失われるような……」

倒れた壊の横には、柄から真っ二つに砕けた封牙。その体からは深く黒い闇が−−封牙の魂が漏れだしていた。立ち上る煙にも似たその様は本当に終わったのだと実感させてくれる。

「実に、面白いぞ……狩りよりも楽しく、喰らうよりも気持ちが良い」

「……それは良かったな。これで奴も浮かばれる」

「お前と、は……まだ戦い足りないが……血湧き肉躍る戦いを味わわせてもらった。兄が心の奥底から感謝しよう」

「そんな物はいらん。さっさと逝くが良い」

闇が抜ける量が次第に少なくなるに連れて、封牙の言葉も聞き取り辛くなっていく。

「時とは短いなぁ白銀!オレたちにもあの世という概念があるならば……再び−−」

最後の闇、それが虚空に消えた。

「何て言ってたんだ?」

「……元の姿で一戦交えるぞ、とな。いつになるかも分からぬ事を」

「そうだな。さて、次はこっちか……」

地に伏せた壊に目を移し、懐かしむように言葉を紡いだ。

「二年前と同じだな。最後の一撃に全てを込めて。ぶん殴ってさ」

瞳を閉じ、その時の事を思い出すと自然と笑いが込み上げて来る。壊は、眠ったままだ。

「知ってるか飛澤?実は俺、あの時な−−」

今度は、謝罪するように優しく言葉を掛ける。

「−−あの時……手加減したんだよ。悪かったな本気でやらなくて」

小さく頭を下げ、背中を向けた。別れの挨拶だ。

「あ、俺です……えぇ……お願いします」

あんな激闘の中で奇跡的に無事だった携帯電話を取り出し、−−実は茂みに隠しておいた−−ある場所へと依頼をした。
電話をものの数秒で終了し、壊へと向き直ると満面の笑みでこう告げたのだ。

「今回も、手加減させてもらったぞ。ありがたく思え!」

「随分と上から目線だな」

「良いんだよ。誰かが傷付けば悲しむ人間が居るって言われたし。それをあいつは分かるべきだ」

結界は解かずに、そのまま外に出た。また一つ、始まりの炎を灯した事を喜びながら。




〜龍と刀〜
第6章「敵対理由?」 終

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あきゅろす。
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