〜龍と刀〜 夕暮れの決闘Z ***** 「まだ、やるのか……?」 鉄パイプを杖にして立ち上がる壊は、全身が土まみれで、制服も破れている箇所が見受けられる。 そんな姿を見て、陽は声を掛けた。これ以上やってしまうと、警察のお世話になりかねない。 しかし、陽の不安などお構いなし、といった感じで再び殴り掛かろうとしていた。よろめく足、涙で曇る視界、震える両腕。体はとっくに悲鳴を上げているというのに、どんどん進んでいく。何かに駆り立てられるかのように。 「こんな骨のあるヤツが同じ学年に居たなんてな……驚いたぜ……」 「まったく……こんな負けず嫌いが居るとは思わなかったな」 陽とて無傷、という訳ではない。素人の予測不能な動きに苦しめられたのだ。 「……噂は、マジだったか。万年サボリ魔こと龍神」 「そうみたいだな……ケンカっ早さが随一の飛澤」 不敵に笑い合い、強く、強く拳を握り締める。力の限りに。投げ捨てられた鉄パイプが最後の衝突の合図だった。 ***** 静寂、沈黙。 今の二人の状態を表すのに一番最適な言葉だろう。それくらいに無音なのだ。強いて挙げるとしても、お互いの息遣いのみ。吸って吐くそれだけの行為。 次に一撃を入れた方の勝ちだが、今頃になって、本当にこれで良いのかという気持ちが首をもたげた。 そんな長い沈黙を破ったのは、破れたのは封牙だけ。 「やはり……良い。この、常に死と隣り合わせという緊張感!今にも切れてしまいそうな張り詰めた空気!数百年という時を生きて来たが、飽きる事が無いな」 ずっとその身を戦場に置いてきた封牙は、このような事を何度も経験して、それを好んだ。自身の本能に従って。 「さあ兄弟よ!どちらが喉笛を咬みきるのか、狩りをしようじゃないか!」 「……貴様には、眠ってもらう。二度と目覚めぬように」 白銀と封牙も、決着を望んでいる。だったらもう、腹を完全に括るしか無い。 「龍神、もう終わりに……しようぜ。お互いの本気で、全力の一撃で!」 「分かってるさ……加減は、出来ないぞ!飛澤!」 勝敗を決するために。 因縁を断ち切るために。 それぞれの思いへの決着を。 「おぉおお!!」 「お前の魂、このオレが喰ってやるぜェ!白銀……弟ォ!」 漆黒の閃光と−− 「終わりだ、飛澤 壊!」 「永遠に眠れ、我が兄よ……!」 白銀(ハクギン)の煌めきが鋭い光となって突き刺さる。 ただの力押し。自分の全身全霊の限りを尽くした最後の一撃は、ゆっくりとだが確実にその身へと沈んでいく。 「……っ!?」 「いっ−−けぇぇ!」 ヒビの入った武器を無理矢理破壊し、持ち主に直線のダメージを与える。肉を裂き、骨を砕く。斬られた体が噴き出す鮮血。 ぐらり、と攻撃を受けた方がバランスを崩して地面に勢い良く倒れた。 ……そう。短くも長い戦いに、終止符を打ったのだ。 [*前へ][次へ#] |