〜龍と刀〜
夕暮れの決闘Y
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時を遡る事二年前。まだ広場が完成するほんの少し前だ。
学校でこっぴどく叱られたにも関わらず、壊は、陽に向かって決着をつける、と工事中のここに呼び寄せた。幸いにも工事関係者が帰る時間帯で、辺りには誰も居ない。
柵を飛び越え、中に侵入。
盛られた砂、木材、大量の鉄パイプに鉄筋、重機がそのままの形で置かれていた。
「ホラ、お前のだ」
無造作に積み上げられた鉄パイプの一本を自分に、もう一本を陽の足元に。
「……得物があれば勝てるとでも?」
「どんな手を使っても勝てば良いのさ。これでやり合えば、確実にケガはするだろうけど。男として、退く訳にいかないだろ!」
腕をグルグルと回し、体勢を整える壊に対して陽は、と言うと。
「素人に負ける程ヤワな鍛え方してねえからな……俺は使わない」
転がったままの鉄パイプを蹴り飛ばし、拳を固める。さすがに、武器を使うと加減が出来ない事くらい自分でも分かっていたつもりだ。
壊にしてみれば、挑発と同義だと思ったらしく鉄パイプを高く振りかざして地面を殴っている。
「来ないのか?」
「誰が!おおぉ!」
*****
もう何度目だろうか、忘れるくらいに衝突し、その度に白銀と封牙が信念という名の刃をぶつけ合う。
「お前も人を喰らえば良い!昔のようにな!」
「我は誓った、もう誰一人として人間には危害を加えないと!」
「だが兄弟、お前は主を危険に曝しているではないかぁ!!」
「それは……違う!」
白と黒が連続で交差し、輝きを放つ。
持ち主の二人もそれは同じだ。
「ホント、似た者同士だよなっ!」
壊の一撃が脇腹の肉を抉り出す。冷たい刃が通り過ぎたと思えば熱い血液が滴り落ちる。今のは、痛手だ。
「そうだな……嬉しく無いが!」
封牙を無理矢理押しのけ、右からの逆袈裟。
黒衣を切り裂き、壊の体も同時に貫く。バッサリと裂かれた黒衣の合間から見える、生々しい傷跡。骨の一、二本は持っていけただろう。だが壊は、苦痛の表情を見せる事なく動き続ける。
「かはっ、はぁはぁ……今の、効いたぜ……」
「そっちは体力だけだろ……こちとら魔力ごとだ」
距離を取る二人。額には玉のような汗が浮かび、血液と混ざって流れていく。息は荒く、常人なら倒れるか、最悪命を落としているだろう。
そんな状態でも立っていられるのは、普通じゃないだけでなく、成し遂げたいという信念が心にあるからだ。
陽の腕の龍化が解けていく。封牙に斬られ続けたのが最もな理由だが、龍化に使う体力の問題もある。そろそろ限界が近づいているのだ。
それは壊も同じだった。白い髪の毛先から、次第に赤みがかった黒い髪に戻ろうとしている。
「ん?何だ、坊主共……もう終わりかぁ?」
「いや、まだだぜ……俺は勝つんだからな……」
深呼吸をし、気分を落ち着かせる。
「……決めるんだな」
「あぁ。次の一撃に賭けるつもりだ……白銀の因縁も、飛澤との決着も」
傷付いた脇腹をかばうように、白銀を向けた。言った通り、これが最後の一撃になるだろう。
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