〜龍と刀〜
夕暮れの決闘X
壊を吹き飛ばした隙に、白銀を取りに走る。
「させるか……っ!」
倒れていた壊が、立ち上がらずに封牙を投げつけた。一直線に飛ぶ封牙は、黒い軌跡を作りながら突き進む。
だが、力任せに投げた一撃は陽を掠める事なく無惨にも地を滑るだけ。
そんなのはお構い無しに陽は無事、白銀を奪取。
「最近は自分の意志だけである程度だが、龍化出来るようになったんだ。腕一本だけでも大分違う」
血振りをするような仕草で空を切り、壊の次の動作を待った。と言っても、次は封牙を手元に引き寄せる。多分、それだ。
そう踏んでいる陽は、壊の手に注目し鎖を引いた瞬間に仕掛けるつもりでいる。当然背後から来るだろう封牙も警戒対象に含む。
「……」
「……!」
一瞬の静寂。
手首がピクリと動いたのを確認し、両足に力を込めて全速力で間を縮める。
その最中だ。壊の腕は後ろに下がる事無く、体ごと大きく回転してみせた。動きに合わせて地面から引っこ抜かれた封牙が同じく大回りに回転。
陽は足を止め、自分の立ち位置と封牙の位置を見ようと首を傾ける。それが仇となった。
「お返しだぜ、龍神!」
封牙を自分から手放した壊が目と鼻の先に。右手を振り上げて、渾身のストレート。
鈍い音と衝撃に体がよろける。
「やられたら、倍にして返す!俺の信念だぜ!」
続けて左からのアッパーカットとフック。いつぞや見た、壊の素手での戦い方だ。陽自身は覚えていないみたいだが、何故か反応出来る。心が記録でもしていたのだろうか。
だから、分かる。次に来るのは−−
「いくぜ!……これでも」
−−しっかりと腰の入った、威力の高い−−
「食らえよ!」
−−締めの右ストレートだ。
直感的にそう思った陽は、同じ気持ちで、まったく同じフォームで、右ストレートを放った。龍の腕から放たれた拳と死神から放たれた拳が正面衝突。
ミシ、ミシ……と骨が軋む。自然と痛みは来ない。ふと、顔を上げて壊の表情を盗み取ろうとした。
そこに刻まれていたのは、純粋な笑顔だ。自分も、そんな顔をしているのだろう。
「良く、分かったな?」
「ただの勘だ。さ、まだ終わってないぜ?続けるぞ」
牽制の意味を兼ねた蹴りをお見舞いする。避けられるのが前提の蹴りだ。
その間に壊は器用につま先で鎖を絡め、思い切り引き戻す。陽はそれを止めるでも無く眺めていた。仕切り直し、とでも言いたげだ。
「日も落ちてきたな……二年前も遅くまでやってたっけ」
「仕方ねえだろ?飛澤が倒しても倒しても向かって来るんだからな……お喋りは終わりだ」
薄暗くなってきた夕暮れ空を見上げて、ぽつり呟いた壊。陽も感傷的になるところだったが、耐えた。耐えなければならなかったから。じゃないと情けを掛けてしまう。
「やるな、お前の主?さぞかし魂も美味いんだろうなぁ」
「ふん。我が貴様のごとく見境なく主と組むとでも?」
「ほざけぃ!お前は選んでいるのだろう?自分に相応しい主を?」
「選ぶ権利は……我にある」
こちらは鍔迫り合いに持ち込む度に意見の相違が生まれていく。止まりそうにない。
「違うだろ?誰かを選んでるんじゃなくて、心を通わせるかが問題。だな白銀?」
「その通りだ。絆こそ、我が誇りだ」
散る火花と鮮血。お互いにもうボロボロだ。だが、手は、体は休む事なく動かされる。倒すべき相手を目の前にして。
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