〜龍と刀〜
夕暮れの決闘W
二人の剣劇が激しくぶつかり合う度に、空気がビリビリと振動する。
「心地いいな。やはり、戦いに身を置く事こそオレの生きがいだ!そうは思わないか坊主、白銀?」
「残念ながらお前の持ち主と違って、俺はバトルマニアじゃないんだよ。封牙」
「貴様もいい加減、獣である事を捨てたらどうだ?」
冷静な言葉に興ざめしたのか、それ以来鎖を操ろうとしない。ただ、鎌の刃に魔力が集中しているのは感じる事が出来る。
「自分が生きた証を捨てろと言うのか?お前はそれでも良いんだろうが、一緒にするな。オレはどんな姿であってもオレだ!それは変わらない!」
ドクン、と刃が脈打ったかと思えば、鎌が金属としての色を完全に無くし、漆黒となった。
「これで完璧にオレの肉体となった……少々魂を喰わせてもらったがなぁ!」
「悪いな。俺だって死神だぜ?補給もしないで黙っていたとでも?」
「そう来なきゃ、オレを持つのには相応しく無いか……面白いぞ」
悪戯っぽく笑み、肩に封牙を置く。壊なりの構え方みたいだ。
「そうか飛澤……人にまで手を出したとなったら、消すしかない」
「上等!戦いは生と死しか無いって言ったじゃねえか。勝てば生きれる負ければ死ぬ。単純で分かりやすい、だろ!」
言い終わると同時に、壊が封牙を横合いに払う。形は違うが、鎌で居合いをやってのけたのだ。
柄の先端を軸にして振り抜く事で、範囲は格段と広がる。そして今は刃に封牙の魔力が相乗している状態。直撃は避けたい。
そう考えている間にも、刃は禍々とした軌跡を放ちながら土を抉り、迫る。
「くっ……!」
喉元を掻き切るための一撃をすんでのところで防ぎ、武器が手元から離れた壊の懐に潜り込もうとした、その時だ。
受け止めたはずの封牙が、軌道を変えて引き戻された。予想外の動きに、白銀が絡め取られてしまう。白銀は中空を舞い、壊の背後へと飛ばされた。
「おいおい龍神?まさかこんなんだったのかよ……?」
「呆気ないなあ兄弟。何百年という時が感覚を鈍らせたか?」
ざっ、ざっ……と砂を蹴る音が聞こえる。このまま近づけさせる事なんて出来ない。だが、魔術は使用禁止。今更ながら何でこんな条件を呑んだのか。少し弛んでいたのかもしれない。
「まぁ、俺の勝ちだし仕事も終わるし……普通の生活に戻れるぜ」
「そう、か……ふふ」
「……何笑ってんだよ?死に際におかしくなったか?」
魔術の使用禁止。確か条件はそれだけだったはずだ。なら−−
「さっくりいっちゃいますか!」
「サヨナラだ、白銀の主ィ!」
封牙が陽の直上から、命を刈り取ろうと降り注ぐ。それでも陽は笑いを絶やさなかった。
「なにが……!?」
「切り札、と言う訳か坊主?」
振り下ろした本人が目を見開いている。それほどまでに強烈で、驚きを隠せない。
確実にやった、と思ったみたいだったが、陽には魔術ではない一つの手段が残されていたのだ。
「龍化は魔術じゃないからな……問題ないだろ?」
陽が何事も無かったかのように立っていて、右腕を伸ばしている。その腕にはびっしりと灰色の鱗が敷き詰められており、更に上を見ると、あまつさえ封牙が止められていたのだ。出血こそあるが、致命傷にまでは至っていない。
「驚いたろ。まずは……これでも食らえっ!」
呆然と固まっている壊の顔面に、空いている左手で拳を打ち出した。
苦痛に歪む表情がスローモーションのように過ぎていき、壊の体を地面に転がす。
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