〜龍と刀〜
夕暮れの決闘V
荒い呼吸を整えるためにゆっくりと息を吐く。痛みは和らがないが、気休め程度にはなった。白銀を再び構え、壊を見据える。
口元が吊り上がっていた。まるで、戦いを楽しんでいるかのようだ。封牙も同様に、鎖に付着した血液を吸収している。それに呼応し、鎌の刃先は鈍く輝く。
「そういや、お前がそっち側についたのは俺と戦うため、だったな……」
「急に何だよ。打ち所が悪かったか?」
「……そんな事しなくても、言えばいつでもやってやったぞ」
自嘲気味に笑う陽。今言ったのは本当だ。陽は正々堂々、真正面からぶつかって来る分には同じ姿勢で、受けて立つ。それが信念でもあるからだ。
「まあ龍神ならそうだろうな。だけどよぉ?馴れ合いの決着に意味あんのか?俺はそうは思わねえ!」
地を蹴り、陽の頭上から大振りに一撃を放った。
陽は間一髪でそれを避け、白銀を横に凪ぎ払う。抉られた地面がこの一瞬で粉と化す。
「決着ってのは、犠牲があるからこそ燃える!何て言ったって死を意識しながらだ!負ける訳にいかないって気持ちになるだろう!?」
「犠牲なんざ必要ない!痛めつけるだけでも、効果はある!」
迫った鎖に右足を取られながらも、勢いに任せて足を動かすことで封牙ごと引き寄せる。
「クククッ……類は友を呼ぶ、とは良く言ったものだなぁ白銀ェ!」
「……それに関しては同意しておこう」
あくまでも冷静に対処する白銀。対する封牙は前と変わらぬ挑発的な口調だ。
「言ったろ?どちらかが死ななきゃ、終われないって」
両者共にわざと力強く攻撃する事で、距離を取る。開始から十数分でお互いの服はボロボロ、出血も見て取れた。
「終わりを望むのは勝手だ。だがな飛澤?俺にも譲れない物がある。それが何なのか考えろ。今更だが、一度聞く−−」
白銀を下ろす事は無く、そのまま斬り掛かれる体勢のまま。警戒は解かない。
「−−退く気は無いか?」
「……ざけんなよ。誰が、誰がここまでやって退ける!バカじゃねえの?!」
声を荒げてそう言う壊の顔には、しっかりと怒りが刻まれていた。
陽は分かっていたが、聞きたかったのだ。戻ると言ってくれるなら、素直に戦闘を中止するつもりだったが。
「そんくらい知ってるさ。まだ、心のどっかで迷ってたんだな……だけどそれも終わった。ここからは『剣凰流』頭首として、お前を倒す」
大きく目を開いた先に映るのは街を危険に曝す敵だ、と認識させる。自身を狙う、『永遠の闇』の一員として。
「ハッハー!良いねえ龍神、その目だぜ!それでこそケリを付けるに相応しいってもんだ」
鎖を軸に、封牙を回転させている。空を切り裂く音がとても禍々しく、耳にまとわりつく。
「良いんだな、陽?」
心配してくれた白銀が優しく声を掛けてきた。自分も兄弟を壊そうとしているというのに。
「聞いた通りだ。白銀、力貸してくれ」
「うむ。我、汝が剣となろう」
「……心強いな!」
目を閉じて、神経を集中させる。腰溜めに白銀を置き、得意の居合いの型に持っていく。
「……力こそ絶対だよな?」
「そうだ!その証として、オレは喰らう!だが、その行為を悪と言う野郎も居るがそりゃ違う」
「分かってるぜ。正義も悪もねえ。ただの義務だからな!」
鎖を握る手に力を込める。次第に封牙の回転も速くなり、甲高い音色が辺りに響く。
−−激突。
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