〜龍と刀〜 剣術稽古! 陽が道場に到着した頃には、紗姫は竹刀の素振りを、月華は隅の方でそれを楽しそうに見ている。それが小さい頃の月華を思い出させ、何とも微笑ましい。 「来たわね龍神君。サクッと終わらせちゃうんだから」 「ただの剣術じゃなかったら、簡単だろうけどな。純粋に剣術だけだ。熟練度が物を言うぜ?」 自分の手に馴染んだ一本の竹刀を掴み、紗姫と向かい合うようにして構える。両者の型は『剣凰流』の物、腕は自然と中段の位置に。 「こ、これって合図とかするんだっけ?」 真剣な雰囲気の二人をよそに、月華が恐る恐るといった感じで質問。最近は十六夜たちがやっているところを見なくなったのだろうか。 「まあ、試合形式だし……頼むか」 「そうね。じゃあ、月華ちゃん」 元気に立ち上がり、二人の間に。そんなに近付かれると、充分攻撃範囲に入ってしまうが、紗姫にも分別がある。そこは考慮してくれるはず。 「それじゃ、準備は良いね?用意−−」 竹刀を握る手に力を込める。初撃は様子見だ。 「−−スタートー!」 月華の合図と同時。 紗姫は容赦なく竹刀を振り下ろす。速さがある、鋭い一撃だ。 「っ……月華、早く離れろよ?じゃないと、当たるぞ!」 「う、うん!」 頭目掛けて放たれた一撃を即座に受け止め、月華が離れるのを確認してから竹刀を逸らす。 当然、軽くいなされた紗姫も黙ってはいない。勢い良く床を叩きながら、その反動を利用し、逆袈裟。剣道の試合の時に陽が使った手だ。 「人の心配してて良いのかしら!」 逆袈裟から突きへ、そこから更に払い、袈裟と絶え間なく続く連撃は、最初の頃の紗姫に比べれば、かなり進歩している。紗姫が得意とした、守りからのカウンターという、速さが要求されるタイプの型。その特性を殺す事なく、長所を伸ばした結果だ。少しは感謝があっても良いと思う。 「大分動けるようにはなってると思うがな……そんなに単調だと、返されるぜ」 「え、消え……!?」 攻撃の隙間をかいくぐり、紗姫の視界から消える。正確にはしゃがんだだけ。これだけでも注意を削ぐ事は可能だ。 「こんな風になっ」 紗姫の攻撃の手が緩んだ一瞬、立ち上がり、振りかぶった竹刀で頭を叩く。あくまで力は入れないが。 「ひゃう……やっぱ勝てないかぁ」 「ま、こんなもんだろ」 試合終了を宣言したのを聞いて、月華が拍手をしながら歩み寄って来た。しっかりとタオルを二人分持っているのはさすがだ。 「凄かったね!こう……!」 興奮覚めやらぬ月華。身振り手振りで感想を伝えてくれる。そこまで誉められると悪い気はしない。 「紗姫ちゃんもカッコ良かったよー。陽ちゃんとあそこまで……」 「ううん。まだまだ修行が必要ってね。いずれは超えるんだから!」 「私も応援するね!」 そんな二人の会話を聞きながら、陽は紗姫の動きを思い出す。日課として評価をしてやらねばならないからだ。 「今日は、そうだな……キレがあったし、攻撃にも重みがあった。悪いのは周りを良く見ない事か?型変えてからだよな?」 「多分ね……、一つに集中すると、周りが見えなくなっちゃうのよ」 反省しているなら、特に言う事は無い。今は、白銀も居ないから実質上終わりである。 「さて、今日はゆっくりお風呂に入れるわ。月華ちゃん、一緒にどう?」 「あ、うん。大丈夫だよー」 タオルを首に掛け、陽に背中を向けた。ここで、紗姫が一言。 「月華ちゃんが居るからって覗かないでよね?」 「はぁ……毎日言われるな。信用無いのか?」 「え?楽しいからよ」 その場でくるりと一回転し、赤くなった月華の手を引いて道場を後にした。 「俺はもう少し、やってくか……」 誰も居ない道場で、竹刀を振る。 空を切る音が、やけにうるさく響いた。 [*前へ][次へ#] |