〜龍と刀〜
全ての真相
*****
「戻って、来たみたいだな……」
目の前には木造の小屋、背後の海からは日が昇り初めている。どうやら徹夜になってしまったようだ。
ふと耳を傾けると、小屋の中から楽しげな笑い声が聞こえてくる。考えにくい話だが、打ち解けたのだろうか。
「ガッハッハ!で、その時オレはそいつの顔面をぶん殴ってやったんだ!あの顔は忘れらんねえぜ〜」
再び起こる笑い声。断片的なのだが、面白い部分は何も無かったと思う。
「あんたら−−って酒臭っ!なんだこの空間は……」
春空を抱えたまま小屋の中に入ると、そこは、キツいアルコールの臭気が充満していた。
「すまない……ずっと水だと思ってたんだ」
深々と腰を折って謝罪するスキンヘッドの男。責任を感じているらしい。
「あーあ……こりゃ今日は寝てるなこいつら。それで、あの術式空間を作った意味は?」
「仕方ないか……全て話そう」
春空を寝かせるようにと、自分で用意していただろう布団を差し出し、自身は床に胡座をかく。
「実は、全部協会側が用意したイベントなんだ。剣凰の代理とご友人を招待するための企画だったのだが……」
「……ちょっと待て。なら、最初の依頼の話は?報酬は?」
「全て、狂言さ。いやーあの演技はなかなか自分でも−−」
頭を抱えて呻き出す陽。気張っていた自分が馬鹿馬鹿しい。
「慰安旅行として……どうかしたか?」
「どうもこうも、ねえよ……それだったら素直に慰安旅行で済まそうぜ?」
こうして、陽の、本当の意味での夏休みが始まりを迎えるのであった。
*****
−−同日、京都。
「長、少しお時間よろしいですか」
白い着物の女性が、髭の長い老人に話し掛ける。
「何かあったのかのぅ?」
「実は、『剣凰流』頭首様からお電話が……」
「魔術師が電話とな……時代じゃなぁ」
自慢の髭を撫でながら、ゆったりと電話が置かれている部屋へと歩みを進める老人。相手を待たせるとは、大層な身分である。実際そんな身分なのだが。
数分後、ようやく受話器を手に取り会話を始めた。
『電話取るのにどんだけ時間掛かってんだよ……』
「変わりはないか、剣凰の」
受話器から送られて来る声は、少年の物だ。自分も良く知っている。
『そんな他愛もない会話するために電話したんじゃねえよ。一つ聞くぞ……全部あんたの差し金だったんだな?』
声に苛立ちを感じられる。何か失敗しただろうか。
「慰安旅行じゃろ?春空グループに頼んであの島に宿を建ててもらったのじゃが。気に入らなかったか?」
『やっぱりか……宿代とかはどうするんだ?報酬が無い分、全員のを払えるかどうか微妙だ』
「友達思いじゃな。ふむ、それに関しては儂に任せると良い」
何だかんだでこの少年は周りの事を最優先で考える。とても良い事だ。
『ん、それを聞きたかったんだ。それじゃあな。健康には気を配れよ』
ブツリという音を立てて通信が終了。受話器を置き、一人静かに笑みを零す老人。
「ほっほっほっほ……健康、か。年じゃな儂も……可愛い孫娘は楽しんでくれたかの?」
密かに思い浮かべるは、白い髪の小柄な少女。魔術とは一切関係の無い、孫娘だ。
「久しぶりに会いに行ってみよう。家族として……ああ君、儂はしばらく開けるつもりじゃから、他の者によろしくのぉ」
「え、あの……長!?」
近くに居た一人の女性を、老人らしからぬ早口でまくし立てた。
彼の短い休みもまた、幕を上げたのだ。
〜龍と刀〜
第5章「偶然重なる夏休み!」 終
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