〜龍と刀〜
術式空間X
龍化してからの陽の動きは、特に剣捌きがしなやかになった、とでも言うのだろうか。
ドラゴンにダメージを負わせているかはともかくとして、相手をその場に留まらせる事は出来ている。
爪や牙と言った肉弾攻撃は剣の腹で流し、近場の部位を斬りつけ、炎と翼に依る風は水気の術で相殺、もしくは場所をずらす。
ふと、走って行った春空はどこかと探す素振りを見せる陽。
「あと少し……保たせれば!」
崩れた足場に気を取られないようにしている姿が見えた。早くても、あと五分あれば辿り着けるだろう。
居合いのように剣を腰溜めに持っていく。時間稼ぎ、もしくは一撃必殺。龍化した状態なら、普段以上の威力を期待出来る。
「はあぁ!」
そう。それが白銀であるならば。
爪と剣がぶつかり合い、赤い火花を散らした。ドラゴンが痛がっているところを見るに、爪を破壊出来たみたいだ。だが、剣先に視線を巡らせると、驚きの事実が飛び込んで来た。
「まさか……こんな時に刃こぼれかよ」
顔をしかめ、一度体制を立て直そうと剣を引く。今までは、白銀の常時硬化の魔術に頼っていたため、刃こぼれなどという事は念頭に無かった。
ボロボロの刀身とドラゴンを見比べ、簡易な戦略を考える。
「確実に仕留めるなら、口か目を狙うのがセオリーだよな……」
いくら硬くても、どこかしら弱い所があるという考え方だ。だが今は春空と一緒に脱出するのが専決。無意味に戦闘を引き伸ばすのは得策じゃないと判断。
睨み合いが続いていると、急にドラゴンが陽に背を向ける形に、一回転。
『……逃がさないと、言っているゥ!』
気付いた時には遅かった。ドラゴンは春空に向かって紅炎を吐き出そうとしている。
陽は急いで駆け寄ろうとしたが、足場が悪くてなかなか前に進まない。
このままでは、本当に−−
「春空!急げぇ!」
力の限り大声を上げながら、ボロボロになった剣でドラゴンの翼を斬りに掛かったが、限界が来た剣は真ん中からポッキリと折れてしまう。
『ガアアアァ!消えろォォ人間!』
吐き出された灼熱の炎は、春空に−−直撃せず、“壁のような何か”によって反射。そのまま、ドラゴンの脳天を撃ち抜いた。
『−−−−』
最期の言葉すら発せずに、ドラゴンは地に伏した。
何があったのか理解出来ない陽。龍化の反動で受けたと見える傷を庇いながら春空の下へ。
「大丈夫か春空!」
「龍神、さん……」
陽が来た途端、力無くその場にへたり込む春空。その手に握られていたのは、一つの御守り。
「これが、お母様が守ってくれました……」
「そっか。良かったな、春空」
それをキュッと握り締め、笑顔を作る。陽はそれに応えるように、そっと頭を撫でてやった。すると、すぅすぅと安らかな寝息を立てて眠ってしまったみたいだ。
「さあ、ゴールだ……お疲れ」
優しく春空を抱きかかえ、玄関もといゴールの門を潜った。
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