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〜龍と刀〜
術式空間W
限られた空間のせいか、ドラゴンの動きは鈍いのだが、下手に動かれると天井ごと崩れかねない。

『ええい、ちょこまかとぉ!』

鱗に包まれたドラゴンの胸が膨らみ出す。それと同時進行で、牙が並べられた口に赤い物が溜まっていく。

「こんな狭い場所で炎か……だったら!」

陽は握る剣に意識を集中させ、ドラゴンの炎に対抗するため、大気中の水気をかき集める。幸いにもここは術式空間だ。魔術を作り上げる環境にも適している。

『オオオオォォ!!』

ドラゴンの口から熱波とともに、赤々と燃えたぎる炎の塊が射出。完全に消し去らないと、辺り一面火の海と化すだろう。
合わせて陽は剣を頭上高く振り上げ、水気を纏ったまま力強く叩き斬る。
消火しようとする陽の水気と、攻撃の意志が強い炎が衝突−−それも一瞬だ、炎が水を蒸発させ、陽の体を包み込む。

「龍神さん……!」

隠れて様子を窺っていた春空が悲痛な叫びを上げる。

「っ……春空はちゃんと、下がっててくれ……俺は大丈夫だから」

炎を振り払っての登場だ。本人は大丈夫そうだが、服は至る所が焦げ付いている。

「本当に魔王だな……情け容赦一切無しかよ?だけど、こっちも早く帰りたいんだ」

地面を強く蹴り、ドラゴンの懐に侵入。勢いを殺さず下段からの逆袈裟を仕掛けた。
ギ、キキキキ、と剣はドラゴンの腹をなぞりながら火花を散らす。さすがに白銀のようにはいかないようだ。

『その程度!』

太い腕を高く上げ、陽目掛けて一直線に振り下ろす。鋭い爪が空を裂きながら襲い来る。
その爪を間一髪で避けたものの、ドラゴンは巨体に似合わぬ速度で連撃を繰り出した。当たる度に地面は砕け、足場は最悪だ。
しかも、これ以上後退してしまうと、春空の隠れている教室に到達する。アトラクションと言えど、肉体に対するダメージは本物。一般人の春空がまともに喰らったら……考えるまでもない。
何とかここで食い止めなければ。

「丁度良いぜ……龍化を試したかったんだよ!」

バックステップで不安定な足場から脱し、目眩ましも兼ねた水気をドラゴンの顔に直撃させる。陽自身も、意識を集中させるために瞳を閉じ、右手を胸の前に。淡い発光と共に小さな魔法陣が描かれる。
ほんの数秒、右腕だけだが灰色の鱗に覆われた。龍化は成功みたいだ。

『貴様、人間じゃないな?我らと同じ種か?』

「さあね。あんたが本物の西洋竜なら、親戚ってとこだな」

チラリと横目で春空が居るであろう方向を確認。今の内に、という合図だ。
春空が小さく頷き、ゆっくりと慎重にゴールに向かって走り出した。
あとは、もう少し粘るだけだ。

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